日韓、不信の連鎖断てるか 釜山・東西大の張済国総長インタビュー

西日本新聞 国際面

●民間交流 相互理解の鍵に

 日韓の対立が深刻だ。韓国最高裁が昨年10月、日本企業に元徴用工への賠償を命じた判決を機に深まった両政府のあつれきは、日本が韓国向け半導体材料の輸出規制を強化し、さらに安全保障上の輸出管理で優遇する「ホワイト国(優遇対象国)」から韓国を除外することを決めたことで経済に波及した。韓国では日本製品の不買運動や日本への渡航を自粛する動きが強まる。不信の連鎖はなぜ広がり、どうすれば断てるのか。日韓関係に詳しい東西大(釜山市)の張済国(チャンジェグク)総長に聞いた。 (聞き手はソウル池田郷)

 -日韓関係がここまで悪化したのはなぜか。

 「一つは2015年12月に結んだ元慰安婦問題を巡る韓日合意を文在寅(ムンジェイン)政権が実質的に破棄したこと。もう一つは元徴用工訴訟問題への対応だ。二つの問題に対する両政府間の立場や見解に著しい違いがあり、なかなか折り合えない」

 -著しい違いとは。

 「朝鮮半島を不当に支配した日本人に対し、韓国人には今なお被害者としての意識が強い。日本人よりも道徳的優位にあり、日本に償いを要求できる権利が残っていると信じている。その観点から、韓国人にとって最高裁の元徴用工判決は“残された権利”の司法的な確保を意味する」

 「一方、日本では、歴史問題で韓国は政権が変われば態度を変えるとの不信が社会全体に広がった。多くの日本人は韓国の終わりのない要求に歯止めをかけるべき時期だと感じているのではないか」

 ■請求権協定は根幹

 -日本政府が元徴用工への賠償問題を解決済みとする根拠としている1965年の日韓請求権協定について文政権や韓国人はどう考えているのか。

 「65年の合意は軍事独裁の朴正熙(パクチョンヒ)政権が行った。民意が反映されておらず、正当性に疑問を持つ人がいるのは確かだ。だが無効にすべきだと考える人は少数で、文政権も韓日関係の根幹だと位置付けている。取り消そうとはしないはずだ」

 「ただ、文氏は朴槿恵(パククネ)前大統領を弾劾に追い込んだ『ろうそく集会』に背中を押されて誕生した政権であることに強い誇りを持つ。民意を反映する政治を国民に約束し、政策決定はより直接民主主義的になった。その延長線上に被害者中心主義の考え方があり、元徴用工問題で民意や司法を尊重した結果、65年の合意が守れない矛盾に陥った」

 -日本の輸出規制強化に韓国政府や韓国人は「元徴用工問題の報復だ」と強く反発している。

 「韓国人は歴史問題において加害者の日本が被害者の韓国に攻撃的な姿勢を示すはずがないと思っていた。もちろん怒りもあるが、驚いたというのが本音ではないか。日本で起きている変化を韓国はよく理解していなかった面がある。安倍晋三政権は戦後レジームからの脱却を志向しており、歴史から自由になることを望んでいるのだろう。だからこそ安倍首相は元慰安婦問題で、国内の支持基盤の反発にもかかわらず(15年の)韓日合意に応じたとみることもできる」

 -その慰安婦合意を事実上、骨抜きにしたことも安倍政権の文政権に対する不信の背景にあるようだ。

 「韓日双方の相互理解不足が衝突を招いている。そもそも右派的な安倍政権と左派的な文政権のイデオロギーはかみ合わない。韓国の左派には、日本の植民地支配を受容し解放後(戦後)もそのまま韓国社会の支配階級になった親日派(保守派)への反感がある」

 ■出口戦略の選択肢

 -日本は韓国を「優遇対象国」から除外することを決めた。

 「双方とも対立が深まるほど損失は大きい。韓国はさらに反発し、出口戦略の選択肢は互いにますます狭まる。感情的な対立がエスカレートしないよう冷却期間を置き、落ち着いて話し合う環境を整えるべきだ」

 -航空便の運休や自治体間交流の停止など気掛かりな動きが広がっている。

 「政府間がぎくしゃくしている時こそ民間交流が大事だ。韓日交流と相互理解を目指す『韓日・日韓フォーラム』や財界関係者でつくる『日韓・韓日経済人会議』などさまざまな蓄積もある。九州では福岡市と釜山市の産学界リーダーによる提言機関『釜山-福岡フォーラム』が13年間交流を重ねている。こうした組織が対話の雰囲気をつくる役割を果たしてほしい」

 -関係改善の鍵は。

 「韓日が真に同等の関係になるためには、韓国人も被害者意識から抜け出さなければならない。韓国は国内総生産(GDP)世界12位の経済大国に成長し、世界中の人たちが韓国の技術や文化に魅力を感じてくれている。それに見合った寛大さと包容力を備えれば、より魅力が増すはずだ」

 「日本人も改めて考えてほしい。韓国には元徴用工や元慰安婦ら日本統治に起因する被害を受けた人々が今も生存している。彼らの人生には取り戻すことのできない悲しみがある。日本も彼らの『心の治癒』という観点から一連の問題を見てくれたらどうかと思う」

 ▼チャン・ジェグク 1964年、釜山市出身。米ジョージワシントン大卒。米国で弁護士資格。慶応大大学院で博士号取得(政治学)。東西大日本研究センター所長などを経て2011年から現職。2006年に始まった「福岡-釜山フォーラム」を提唱した。

●あおる外交 国益損なう

 「この1カ月、半導体材料の新たな調達先を見つけるよう上層部の指示が飛び交い、社内はパニック状態だ」。韓国の半導体関連メーカー社員は打ち明ける。

 日本政府は7月4日、韓国政府の虚を突くように半導体材料の輸出規制強化に踏み切った。韓国世論の反発や危機感は強い。

 文在寅政権は混乱しているように見える。昨年10月の元徴用工判決以降、文氏は対応策を李洛淵(イ・ナギョン)首相に委ね、自ら積極的に事態打開に動く姿勢は見せなかった。だが輸出規制強化後は一変。文氏はにわかに連日会議を開いたり、「韓国への重大な挑戦だ」と強硬姿勢を示したりして、夏休み返上で対応に追われている。

 そんな韓国の状況を見れば、日本の措置は「効いている」とも言えるだろう。日本では韓国が慌てる様子に溜飲を下げる向きもある。ただ、それが日本の国益になるのかは疑問だ。肝心の元徴用工問題の解決がむしろ遠のく恐れもあるからだ。両国は互いに引くに引けない“チキンレース”に突入したように映る。

 日本政府にとって1965年の日韓請求権協定により元徴用工の賠償問題は「解決済み」とする立場は譲れない一線だ。韓国の元徴用工は故人を含め約22万6千人とされ、日本企業を相手取った同種訴訟も十数件進んでいる。賠償に応じれば韓国内だけでなく、日本が支配した他のアジア諸国でも賠償請求につながる恐れもあり、影響は大きい。

 同協定に基づく2国間協議や仲裁委設置を求める日本側に対し、文政権は直接の反応を示さず、安倍政権の反発を買う一因となった。文政権が元徴用工問題を外交で解決しようとどこまで真剣に考えていたのか、疑問と言わざるを得ない。

 安倍政権も今回の輸出規制強化がもたらす“反作用”をどこまで計算しているのか。韓国は来年4月に国会議員選挙を控える。反発を強める世論を受け、文政権が全面的に譲歩するのは極めて困難なことは安倍政権も分かっているはずだ。

 沖縄県の尖閣諸島を巡り日中関係が悪化した2012年、外交関係者から聞いた言葉を思い出す。「外交とは時に49対51の割合で相手に成果を譲り、51対49の小さな成果を積み重ねて国益を守るのが責務だ。相手をたたきのめすような勝利は、長い目で見て国益を損なうこともある」

 政治対立が経済に及び、相手国への国民の怒りをあおるような現状は、両政権の外交力の不足を物語ると私は思う。
 (ソウル池田郷)

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