生きる意味を問う――鬼と人、鬼人が紡ぐ壮大な長編和風ファンタジー

西日本新聞

 WEB連載時に絶賛を博した和風ファンタジー小説を全編改稿。満を持して書籍化された本作は、著者の書籍デビュー作でもある。読者や書店員からの声が多く寄せられ、発売からわずか2週間で重版が決定した。「完結まで刊行が楽しみ」と期待を込めるファンも多い。なぜなら、本作は一冊の本でありながら、江戸から平成を駆け抜ける壮大な物語のプロローグに過ぎないからだ。

 物語の舞台は天保の世、江戸から百三十里ばかり離れた山間の集落「葛野(かどの)」。ある事情から妹・鈴音とともに江戸を出た少年・甚太は、「巫女守(みこもり)」だという男・元治に連れられ、この地に入る。そこで甚太は、元治の娘であり「いつきひめ」を母に持つ白雪と出会う。甚太と鈴音は、元治と白雪と家族となり、穏やかな暮らしをはじめる。時は移ろい、白雪は「いつきひめ」を、甚太は「巫女守」を継ぐ。怪異を払うべく刀を振るう甚太だが、ある日、集落を囲む森の中で二つの鬼と出会う。そのうちの一つは、人の身の丈をはるかに上回る巨躯(きょく)の鬼。いつきひめより「鬼切役」を拝命した甚太は、鬼討伐に向かうのだが……。

 甚太と白雪の淡い恋心。互いに不器用な告白。望めば手に入ったかもしれない幸せを手放す決意。葛野に生きる人々の心をさらけ出し引き裂く鬼の力の残酷さ。細部にまで行き届く描写が心に残る。甚太の言葉を借りるとするなら、すべてが儘(まま)ならないのだ。幼き日に握ったのは白雪の手か鈴音の手か。鬼が問う、「人よ、何故刀を振るう」。義父が残す、「憎しみを大切にできる男になれ」。その答えを、甚太の生き様を見届けたくなる。張り巡らされた数々の伏線が、江戸から平成へと時代が進むにつれ、どのように回収されるのかも楽しみでならない。

 本作の続きとなる『江戸編』は10月中旬の発売を予定している。WEB連載のボリュームを考えると『江戸編』は上下巻になるだろう。また、完結まで刊行されるとなると、おそらく10巻以上単行本が刊行されることになる。それでも作品として手元に置いておきたくなる、そんな物語なのだ。ぜひ、単行本を通して、千年の時を生きることになった甚太と共に、鬼と人が紡ぐ物語を紐解いていただきたい。

 

出版社:双葉社
書名:鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々
著者名:中西モトオ
定価(税込):1,404円
税別価格:1,300円
リンク先:https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-24185-3.html

西日本新聞 読書案内編集部

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