受難の歴史をくぐり抜け、導きの糸へ。いまこそ注目すべき棉(わた)の魅力

西日本新聞

 「つむぐ」という言葉がある。そもそもは、本書の主役でもある棉(綿・わた)から繊維を引き出し、糸を作ることを指す。だがそこから転じて、「歴史をつむぐ」といった使われ方もする。

 799年、平安時代の日本。三河国(現在の愛知県)に、一人のインド人と思われる青年を乗せた小船が漂着する。そのとき彼が持参していた植物の種子が、日本に初めて持ち込まれた棉だった。だがその種子は、日本の気候と風土に適応できず、芽吹くことなく消滅する。日本における棉の歴史は糸口で途切れてしまう。

 時は移り、室町・戦国時代。中国大陸、あるいは朝鮮半島から伝わった木綿が全国に伝播する。武士の兵衣、船の帆布。軍需のために各地で糸がつむがれてゆく。戦国武将たちの命運、そして日本の歴史を分けた運命の糸・・・?

 その後、江戸時代前半に最盛期を迎えた国内綿作は、明治時代、産業近代化のために外国からの綿輸入を推進する政府と資本家たちによって縮小を余儀なくされる。そして第二次世界大戦終戦から20年後の1965年、ついに国の農業統計資料からも消滅。しかし一度つむぎはじめられた歴史は、何ものも途絶えさせることはできなかった。たとえ2011年3月11日に東日本を襲った、あの大地震でさえも。

 全国コットンサミット。本書はこの、国内産の棉で綿製品を作ろうと活動を続ける方々によって編まれた本である。上述のような棉の歴史をはじめ、植物としての特徴、繰糸や染色の過程も興味深いが、なかでも目を引くのが綿栽培復活の動きだ。そのうちのひとつが「東北コットンプロジェクト」。津波で被災した宮城県の農家の復興を目的に綿栽培を始め、現在ではタオルやハンカチなどの製品化と販売が実現しているという。同様の活動は、奈良県や鳥取県をはじめ全国にも広がりつつある。

 棉の魅力として、合成樹脂に比べて環境への負荷が少ないことが挙げられる。おまけに現在、日本の衣料自給率はほぼゼロに近い状況だ。課題や障壁は少なくないだろうが、こうした動きに希望を見出すのは間違いではないだろう。何度も消滅の憂き目にあいながら、いま新たな歴史をつむぎつつある棉。それが導きの糸として日本を引っ張ってゆく存在になるかもしれない。そんな予感を抱かせる一冊である。

 

出版社:農文協
書名:地域資源を活かす 生活工芸双書 棉(わた)
著者名:森和彦、松下隆ほか
定価(税込):3,240円
税別価格:3,000円
リンク先:http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54017214/

 

西日本新聞 読書案内編集部

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