「なんとなく」に従って生きればうまくいく!自叙伝の形を借りた人生案内

西日本新聞

 内田樹はいま最も人気の高い思想家と言っても過言ではないだろう。特に40代、50代男性の支持は圧倒的なものがある。その内田樹の自叙伝だから、ファンは買うに決まっている。しかし、本書はファン以外が読んでもおもしろいし、内田樹を未体験の人は、これで彼の人気の秘密がわかるはずだ。

 もともと、ウェブマガジンのために語ったインタビューが土台になっているから、すらすらと読める。それでいて、深い洞察に満ちている。たとえば、「SF」というものがどういう文学であるか、短い言葉で本質を突くあたりなど、うならされる。

 さらに、1950年生まれの彼は、作家で言うと、村上春樹、橋本治、関川夏央、浅田次郎らと同世代であり、60年代後半のあの独特の雰囲気をフィクションではなく、泥臭い実相として語っている。後の世代にはわかりにくい時代の空気が見事に再現されていて興味深い。

 そこで語られる半生は、小学校でいじめに遭い登校拒否、高校を中退した上に家出、改めて大検を取って東大に入るも大学院では三浪し、卒業即無職で、32の大学の教員公募に不合格、離婚後は父子家庭として子育てを12年……と、どれをとってもドラマティックになりそうなエピソードだが、そうはならない。内田樹のユニークなキャラクターゆえに「なんとなく」転がっていく。それがかえって、おもしろい。

 似たような境遇にある人は、悩みから抜けるヒントがつかめるかもしれない。家出から戻ったときの、親の側の迎え入れ方は子育ての参考にもなる。このあたりが自叙伝のよいところで、数十年というスパンの出来事を扱っているので、読者がそれぞれの立場で、自分を重ねることができる部分がある。

 個人的には、合気道を始めるときのエピソードに惹かれた。「数ヵ月通ってはそのままやめてしまうということをいくつかの道場で繰り返し」ようやく私淑したいと思える生涯の師に出会う。これが「やりたくないことは我慢しない」という生き方を貫いた結果、得たもののひとつである。その話の中で、「子弟システムのダークサイド」にふれられていて、こうした思索の挟まるあたりが思想家の自叙伝の醍醐味と言える。

 若い世代や人生に迷いがちな人に一読をおすすめする。

 

出版社:マガジンハウス
書名:そのうちなんとかなるだろう
著者名:内田樹
定価(税込):1,512円
税別価格:1,400円
リンク先:https://magazineworld.jp/books/paper/3059/

西日本新聞 読書案内編集部

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