バレエ界のスターが語る芸術とビジネスにまつわる本音の話

西日本新聞

 自分の名前がそのままブランドになるような人がいる。バレエ界における熊川哲也がそうだ。世界的に活躍するスター・ダンサーとして日本に凱旋していた頃は、バレエにさほど興味のない人でも、名前を知っていた。

 いまさらながら、簡単に経歴を振り返っておくと、熊川哲也は10歳よりバレエを始め、ローザンヌ国際バレエ・コンクールで日本人初のゴールド・メダルを受賞。東洋人として初めて英国ロイヤル・バレエ団に入団し、同団史上最年少でソリストに昇格。1993年にプリンシパルとなる。その後、セルフ・プロデュース公演も行うようになり、突然の退団を表明したときには、英国の高級紙が一面で報じた。4ヵ月後にKバレエカンパニーを設立。それは27歳の誕生日目前だった。

 本書は、そこから現在に至る人生の第二幕を赤裸々に語った21年ぶりの自伝となる。熊川はKバレエカンパニー設立の動機をこう語っている。
「僕は自分で起業し、自分の組織を持ち、自分の思う通りの舞台をつくりたかった。自分は芸術創造に徹し、資金のやり繰りは他人に任せるつもりもなかった。そもそも踊ることのできない人間が僕を踊らせてビジネスをすることに強い抵抗があったのだ」

 ここだけ読んでも、成功者の気楽な回想録の類でないことは伝わると思う。熊川は、プロの世界で「芸術とお金」は切り離せない、と言い切る。才能がそのままお金に結びつくわけではないため、つねに矛盾をはらんでいるが、それを手にするための努力を惜しまない男の話だ。

 芸術家の内面を知ることができるだけでも興味深いが、本書は一歩踏み込んで、自分の思いを実現するために社会と対峙していく姿が描かれている。すなわち、ドラマがある。したがって、バレエ界の内幕物にとどまらない普遍性を持っている。特に2007年、熊川が札幌公演で大けがをした以降のパートが読みどころだ。ダンサーとしてもKバレエカンパニーにとっても試練のときであったが、そこでくじけず、次のステージへと進んでいくのである。

 

出版社:講談社
書名:完璧という領域
著者名:熊川哲也
定価(税込):1,944円
税別価格:1,800円
リンク先:http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000312751

西日本新聞 読書案内編集部

PR

読書 アクセスランキング

PR

注目のテーマ