【余生をどこで】(7)認知症特有のケアを続けるため

西日本新聞 くらし面

 「Aさん、お口開けて」「はあい」「おいしい?」…。福岡市東区のグループホーム(GH)「アソシエ和白」の一室。ベッドから少し体を起こしたAさん(88)の口に、女性スタッフが丁寧にスプーンを運ぶ。中身は、とろみをつけたコーヒー牛乳。Aさんは最近、少し食が細くなったため、カロリーの高いもので水分補給をしている。

 「物忘れだけでなく、認知症の影響で食への興味もなくなっていくんです」と施設長の伊藤智さん(39)。1年半前の入居時は「スタスタ歩いていた」Aさんだが今、立つことはできない。開設から8年。「GHも、入居者の方の重度化が進んできています」

 ▼なじみの関係から

 認知症の人が5~9人ずつ、小規模な施設で共同生活を送るGH。食事、入浴、排せつなど、ともすれば画一的な身体ケアに追われがちな従来型の特別養護老人ホーム(特養)などとは異なり、家庭的で落ち着いた雰囲気の中で、個別にケアをするのが特徴だ。

 もともとは比較的軽度者が過ごす場所との位置付け。認知症に慣れたスタッフとなじみの関係をつくり、まず安心感を覚えてもらう。それから掃除や調理を一緒に手掛けるなどして、もともと体が備えていた力を引き出し、症状の進行を緩やかにすることを目指す。

 「何でもしてあげない」のがGHの特徴の一つ。半面、そうしたケアはリスクも伴う。先日、Bさん(92)が共有リビングの床を掃除している最中に転倒し、手首をひねって筋を痛めたことも。「ただ、家族にはGHの性格を理解してもらっています」と伊藤さん。Bさんのけがを聞いた60代の娘さんは「これに懲りずどんどんやらせてください」と言ってくれたという。

 ▼家族とも太く長く

 入居者が重度化していくと、みとりを期待する家族も増える。ただGHの多くで看護師は常駐せず、場合によっては一時入院後、退居を余儀なくされ、空床が出ることもある。GHの退去者のうち、事業所がみとりを行ったのは2割にとどまる(2015年、厚生労働省の助成調査)。

 アソシエ和白など複数のGHを設置・運営する株式会社「アガペ」は市内で調剤薬局を手広く展開しており、在宅医とも連携。和白では最近も3人をみとった。施設では家族の心も揺れがちだが、同社エリアマネジャーの黒木栄司さん(38)は「家族とも思い出を共有しながら長く、太く付き合えるので、人生の最終段階でも互いに意思を確認し、対応するのは難しいことではない」と考えている。

 黒木さんが懸念するのは近年、「最初から身体的に重度の人を多く入居させるGHもある」こと。徘徊(はいかい)するため目が離せない人より、寝たきりの人の方が見守りに手は掛からない。施設側への介護報酬も重度者である方が高く、経営的には安定しやすい。しかし-。

 「過去を知らないとその人の生活習慣に合ったケアはしづらい。元気なうちから人生に寄り添うGHの良さが失われていくのでは」

 ▼施設の役割分担を

 00年から福岡、北九州両市で、複数のGH「ふれあいの家」の設置、運営にかかわってきた介護福祉士の倉田直枝さん(48)も、GHの先行きに不安を覚える。介護業界の人手不足もあり「重度者の身体ケアにしか慣れていない職員が少なくない」と感じるからだ。

 「入居者が重度者ばかりになった時期があったので…。食事の準備も職員だけで先に終わらせたり。入居者が職員とゆったり向き合えるケアが正直、難しいときもあります」

 倉田さんが力を入れているのは人材育成だ。新人職員1人に先輩1人をつけ、相談相手になったり、認知症のケアを教えたり。またGHごとにレクリエーションの機会を増やしながら、外出時の介護技術も伝えている。「スタッフも入居者も一緒に居て楽しいと思える暮らし」が理想だ。

 今後も、要介護者は増えていく。「認知症の生活のケアはGH、身体的に重くなれば特養や有料老人ホームなど、その人に合った施設に入ってもらうことが、そこで働くスタッフにとっても良いのでは」

 広く介護人材を定着させていく意味でも、施設の「役割分担」の明確化を願っている。

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 【ワードBOX】グループホーム
 介護保険法に基づき、認知症対応型共同生活介護と呼ばれる住まいの一つ。要支援2以上で、認知症と診断を受けていることが入居条件。個室や共有スペースのリビングなどがあり、介護などの職員が常駐して共同生活を支えていく。たんの吸引などの医療的なケアが必要になると対応できない場合が少なくない。設置者は株式会社やNPO法人など幅広い。入居費は居住費や食費のほか、介護保険サービスにかかる自己負担分で月額10万~25万円程度。

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