【日韓関係悪化】 姜 尚中さん

西日本新聞 オピニオン面

姜尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長 拡大

姜尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長

◆消耗戦に勝者はいない  

 輸出手続きの簡略化を定めた「ホワイト国(優遇対象国)」のリストから韓国を除外する2日の閣議決定以降、日韓関係は制御不能の危機に陥りつつある。韓国内では核心的な産業を狙い撃ちにした日本側の報復という見方が広がり、日本の仕掛けた「貿易戦争」、さらには「経済侵略」というセンセーショナルな受け止め方も見られるようになった。しかし、冷静に考えれば、事はあくまでも「輸出管理」の強化であって、全面的な禁輸措置ではない。その意味では韓国側の過剰反応という判断も妥当であり、韓国側の強い反発が日本側の「嫌韓」感情を増幅させる悪循環に陥っているとも言える。

 一方で、日本側は安全保障上の懸念を理由にした輸出管理の強化と説明しているが、「懸念」が具体的に何を意味するのか明らかになっているとは言い難い。また、輸出管理強化の理由として元徴用工問題を巡る韓国との信頼関係失墜を挙げたにもかかわらず、それがいつの間にか後景に退き、安全保障上の懸念が前景化したのはどうしてなのか。そして、なぜ韓国だけが「ホワイト国」から外されたのか。こうした疑念が韓国内に渦巻き、日本による強気の「報復措置」という受け止め方が広がっている。

 「輸出管理」の強化か、「輸出制限」か、「経済制裁」か。そもそも日本側の措置に対する理解からして日韓の間には大きなミゾがあるのだ。

    ◆   ◆

 すでに韓国は、日本の「輸出管理」の強化を、日本企業に元徴用工への賠償を命じた韓国最高裁の判決に対する「経済制裁」の一環とみなし、世界貿易機関(WTO)への提訴も辞さない構えだ。だが、安全保障上の懸念に基づく措置であれば、日本の措置は必ずしもWTOに違反しているとは言い難い。関税貿易一般協定(GATT)の21条により日本に必要な安全保障上の利益を保護するための正当な措置とみなされるからだ。

 しかし、それが韓国最高裁判決に対する「報復措置」であるとすれば、GATT21条が定める「安全保障のための例外」とは直結せず、日本の措置は限りなくクロに近い判定を受けることもあり得る。

 安倍政権が、日韓仲介の労を示唆した米国の動きを振り切る形で閣議決定に踏み込んだのは、元徴用工問題をめぐる韓国最高裁判決を認めれば、日韓関係の土台が崩れ、それが将来想定される日朝正常化交渉の大きな火種になりかねないという強い危機意識だったと思われる。日本の世論もおおむねそれを支持しており、日韓ともども、世論の勢いを追い風に強硬な姿勢に転じつつある。

    ◆   ◆

 韓国内では、安全保障上の懸念を理由に「ホワイト国」のリストから韓国を除外するのであれば、北朝鮮の脅威をにらんだ軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄すべきであるという強硬論すら浮上しつつある。もし、この協定の自然延長が途絶えれば、日米韓3カ国の安全保障体制にひびが生じ、ひいてはそれは北東アジアの安全保障と秩序の流動化につながりかねない。

 実際、この日韓の対立に乗じる形で中露両国の軍用機が竹島の上空に接近し、またロシアのメドベージェフ首相が北方領土に足を踏み入れ、さらにこの間、北朝鮮は矢継ぎ早に飛翔体(ひしょうたい)を発射している。

 日韓はいま、自らの足元を揺るがしかねない共通の脅威にさらされているのであり、互いを敵国とみなすような消耗戦にエネルギーを費やす余裕はないはずだ。消耗戦に勝者はいないことを肝に銘じよう。民間の、自治体の、そして市民同士の交流を絶やすことなく、太く大きく、深く広くしていくことが必要だ。

 【略歴】1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長など歴任。2018年4月から鎮西学院院長。専攻は政治学、政治思想史。最新刊は「母の教え」。

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