新出生前診断 国の責任で方向性を示せ

西日本新聞 オピニオン面

 妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」の在り方について、厚生労働省がこの秋にも検討会を立ち上げて議論に乗り出す。これを受け、日本産科婦人科学会(日産婦)は実施施設の要件を緩和する新指針の運用を当面、凍結することを決めた。

 診断を一気に普及させかねない新指針に対しては、医学系の他学会から懸念が示されていた。「命の選別」に手を貸す恐れもあるという重い問題が伴うこの診断を、どのような条件下で実施するのか、国が責任を持って方向性を示すべきだ。新指針に「待った」をかけた、厚労省の判断は妥当と言えよう。

 新出生前診断は、妊婦の血液に含まれた胎児のDNAから、ダウン症などの原因となる染色体異常を調べる。異常が確定した場合でも、生まれる子の障害に対して十分な準備ができるよう役立てるのが本来の趣旨だ。

 ただ、そうした趣旨が周知徹底されていなければ、障害を理由とした中絶が広がり、それを当然視する風潮さえ招きかねない。日産婦が2013年に臨床研究として診断を導入する際、指針で厳しい施設要件を設けたのは、妊婦に丁寧なカウンセリングを行うためだった。

 高齢出産の増加などを背景に検査のニーズは高まっているが、認定施設は全国に約90しかない。カウンセリングが必ずしも十分ではない無認定クリニックなどで検査を受ける妊婦が増えているのが現状だ。

 現行指針では、小児科医の常勤などが施設認定の条件だが、新指針では研修を受けた産婦人科医がいる施設でも実施できるようになる。小規模な開業医でも検査できるとなれば受診は容易になる。そこでは十分なカウンセリング態勢が保障されるのか。厚労省の検討会で丁寧に議論すべき大きな課題である。

 昨年9月までに約6万5千人が診断を受け、胎児の染色体異常が確定した妊婦の9割が中絶を選択している。重い傷害や疾患が見つかれば、出産に迷いが生じることは想像に難くない。妊婦の自己決定権は尊重されるべきだ。一方で「命の重さ」という視点も欠かせない。どんな妊婦でも「社会が支えてくれるから大丈夫」と思えるよう、福祉や医療、地域の支援体制を拡充することが肝要だ。

 厚労省が設ける検討会は、医学界はもとより、生命倫理の研究者、障害者団体や女性団体など多様な分野の有識者で構成されるべきだ。施設要件を緩めて診断を普及させようというのなら、これまで行われた診断の多角的検証は欠かせない。国民全体に議論を広げ、理解が深まるような工夫にも努めてほしい。

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