【財をあなたに 家族信託考】(中)親亡き後、障害者を守る

西日本新聞 くらし面

家族信託を利用した男性(右)。次女(左)が親亡き後も、安心して生活できるのが願いだ 拡大

家族信託を利用した男性(右)。次女(左)が親亡き後も、安心して生活できるのが願いだ

 次女には重い障害がある。私と妻が認知症になったり、亡くなったりしたら、どう支えればいいか-。

 福岡市の男性(77)は妻(71)と長女(38)、次女(31)の4人家族。一家で支えてきたが、自分と妻が高齢になり、先が不安になっていた。

 次女は先天性疾患があり、障害等級は最も重い1級。生後すぐ、医師は「1カ月もたない」と言った。自力では動けず、意思表示も難しいが、それでも4歳で退院し自宅に戻れた。特別支援学校にも通った。おととしから療養介護事業所で暮らしている。

 男性と妻には次女のため、こんな思いがあった。財産は多く残したい。2人とも亡くなったら長女夫婦に面倒を見てほしいが、負担が重ければ家を売り、そのお金を使ってほしい。次女が亡くなったら、財産は長女夫婦に渡したい-。

 次女に成年後見制度を利用することも考えた。ただ、家族でなく司法書士などの専門家が成年後見人に選任されるかもしれない。次女名義の口座に積み立ててきた預金は後見人が管理するため、本人以外の家族に使えなくなる。生活と財産が守られるメリットはあるが、迷いがあった。

 そこで、司法書士の柳橋儀博さん(39)=福岡県糸島市=に相談すると、家族信託を紹介された。

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 柳橋さんが提案した信託契約は「男性と妻が高齢になっても、亡くなった後も、次女が安心して生活できる」ことを目的にした。

 内容はこうだ。(1)男性の家と金銭を長女が管理し、家の売却も選択肢に活用する(2)財産の管理と活用によって恩恵を受ける「受益者」は男性とし、亡くなったら妻に移る。妻の死亡後は長女に移すとともに、残った財産を長女の所有とし、長女と次女に役立てる=イラスト。2015年夏、信託契約を結んだ。

 これで、男性と妻が認知症になったり、次女の生活支援に負担が生じたりしても、後見人でなく長女が財産を管理して家族全員に使う仕組みができた。いざというときは家を売却する選択肢も生まれた。両親が亡くなった後の次女の生活にも、財産を活用できる。

 仮に何も対策を取らず、遺言もなく男性と妻が亡くなった場合、多くの問題に直面していただろう。次女は意思表示が難しく、両親の財産を相続する際に成年後見を利用することになる。長女が生活を支えるため、家を売ろうとすれば、次女の後見人が家庭裁判所の許可を得なければならない。家裁が「帰る家がなくなる」と認めない恐れがあった。

 信託契約の準備と話し合いで、一家の財産額を明確にできたのも大きかった。資金の見通しが立ち、次女を療養介護事業所に入れることができた。結果として両親の負担も軽くなった。

 長女は「この先、妹の生活にいくら必要で、お金をどう確保するか。ぼんやりしていたけど、きちんと形ができたのがよかった」と安心感を口にした。

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 財産の管理と活用を任された長女は今、新たな役割を果たしている。

 信託契約で父の家の名義が自分に移ったため、固定資産税を負担する必要がある。これは、銀行に開設した専用の「信託口(しんたくぐち)口座」に父の預金を移し替えており、そこから支払う。父母がこの先、介護施設に入所すれば、費用をこの口座から払うのも役目だ。

 原則として年1回、財産の状況をまとめるのも仕事。これらの業務が正しく実施されているかをチェックするため、司法書士などの専門家や家族に「信託監督人」になってもらうこともできる。家族が担えば費用はかからないが、専門家に依頼すると報酬が必要。点検の方法によって年に数万円だったり、月に数万円だったり、金額に幅がある。

 財産を承継するだけの遺言に対し、家族信託は財産と、それを管理する人をセットにして大切な人に引き継いでいく。この特徴があるため、障害のある子を親亡き後も、家族の財産を活用して支えていける。

 柳橋さんは「家族信託なら財産を持つ人が元気なうちはもちろん、認知症になっても、亡くなった後も、長いスパンで管理方法や承継先を決めておくことができる。『信じて託す』相手がいれば、対策の一つとして考えてほしい」と語る。

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