【余生をどこで】(8完)住み慣れた地域で暮らすには

西日本新聞 くらし面

 例えば、お年寄りを車で送迎するとき。助手席の座面にごみ袋を敷いておくだけで「回転シート」に早変わりし、乗り降りが楽にできる。床で転んだ人を起こすには? まず四つんばいになってもらい、次に右足を立ててもらって、体を起こし、最後に顔を上げてもらう…。

 福岡市西区の壱岐公民館が年1回、主催する「自宅や地域で活(い)かせる介護技術講座」。主に、地元のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「まほろばの里 なの国」や介護事業所を運営する社会福祉法人・恵徳会の施設で開かれる。職員らが地域の高齢者や家族たちに、身体ケアや認知症対応のノウハウを学んでもらう。初回から講師を務めるなど主導してきたのは、サ高住の管理者、土居孝男さん(48)。

 「私たちは、『施設に入らずに済むための講座』と呼んでいます」

 ▼近所で介護技術を

 土居さんはこれまで、グループホームなど複数の高齢者施設の運営にもかかわってきた。2011年にサ高住の普及が始まって以降「地域から、お年寄りがごっそり引き抜かれたような気がする」と言う。

 国が当時、高齢者の早めの住み替えを提唱したほか、離れて暮らす子や近所が懸念し、在宅生活を諦めざるを得ないケースもある。「施設は確かに必要だけど、本当は誰もが可能な限り住み慣れた自宅や地域で暮らしたい。少しでもその期間を引き延ばせないか、と考えたんです」

 15年に公民館から打診され、まず一法人として協力した。特別養護老人ホーム(特養)や有料老人ホームを含め校区内の介護、医療の事業所でつくるネットワーク組織「地域ケアを考える会」が16年に発足して以降は、合流する形で続けている。「介護予防だけでなく、家族や友人知人も介護力を高めていけば、介護保険だけに頼らずに、お年寄りを支えていくこともできます」。「共助」の力を地域で高めたいと願うのは、高齢者の住み替えを巡る介護保険の将来に、不安も感じているからだ。

 ▼公民館にも通って

 もともと比較的元気な高齢者向けだったサ高住。運営事業者は経営を成り立たせるため、デイサービスや訪問介護の事業所を併設、半ば入居者を囲い込む施設もある。民間参入が増えている住宅型有料老人ホームも事情は同じ。事業所側への介護報酬が高くなることから、より重度者を入居させる施設も少なくない。

 中にはみとりまで行う施設がある一方、介護報酬目当てに、本来なら必要ないサービスを限度額まで利用させる極端な例も。「国の財源ですし、基本的には自立の支援。必要なサービスを必要な分だけ使うという趣旨を間違うと、制度自体が立ちゆかなくなるかもしれません」(土居さん)

 まほろばの入居者は軽度者が多く、平均要介護度は1・8。デイサービスを併設しているものの「デイなど介護サービスだけでなく、近くの公民館活動にも通っては」と勧めている。「介護度によってはデイを毎日利用することはできないし、地元外からの入居者も含め、できるだけ地域の一員として生き生きした暮らしを送ってほしいので」

 ▼顔の見える関係を

 サ高住や有料老人ホームが重度者を集めがちな現状に加え、特養も入居条件は原則、要介護3以上。地域には、身体的には軽度でも認知症の人が増えている。

 土居さんたちの講座を毎回受けている女性は「目からうろこ。おかげで父を自宅でみとることができた」と顔をほころばせる。「介護が大変になれば施設に入れるのが理想だけど、経済的にも簡単に入れる所ばかりではないし、どこなら本人に合うのかなかなかイメージも湧きにくいし…」

 壱岐公民館の館長、横山美彦さん(72)は「事業所の人たちと顔の見える関係ができていれば、どんな施設がどんなサービスをしているかも分かりやすい」と指摘する。「誰もが自分のこととして考え、必要な知識や情報を身に付けられるように、今後もこの講座は続けていきたいです」

 まずは、地元の施設関係者と日常的に触れ合える仕掛けを-。住み慣れた地域で暮らす余生が描きにくい時代だからこそ、地域ぐるみで将来の暮らしの形を描き、共有していく取り組みも求められる。 

 =おわり

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【ワードBOX】事業所のネットワーク
 介護が必要な高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、国は医療、介護、介護予防、生活支援、住まいのサービスが受けられる「地域包括ケアシステム」の構築を急ぐ。こうした中、各種サービスの主体と地域住民の「橋渡し役」として、介護や医療、福祉事業所の有志が校区単位などで自主的に組織化。地域の課題を共有しながら、専門職として知識や技術、経験を住民側に伝えるなど社会貢献に取り組む動きが各地で広がりつつある。

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