文氏、対立激化避ける思惑 「光復節」演説 経済、安保に危機感

西日本新聞 国際面

 【解説】韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が15日の「光復節」の式典で行った演説で、安倍晋三政権との対話や協力姿勢を打ち出した背景には、元徴用工訴訟問題の対立が輸出規制を巡る経済不安に波及し、安全保障面でも米国を含む同盟関係が揺るぎかねない状況への強い危機感がうかがえる。

 日本政府が7月1日、韓国への輸出規制強化の方針を表明すると、韓国世論は一斉に反発。日本の製品不買や渡航自粛の動きにとどまらず、日韓が軍事上の機密情報を共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄論も浮上した。

 呼応するように、米韓合同軍事演習に反発する北朝鮮はミサイルの発射を繰り返し、文政権を非難。米国からは日韓関係の早期改善を求める声が相次いだ。経済面では米中貿易摩擦の影響もあり、主力の半導体輸出が減少し、ウォン安と株安が同時に進んだ。

 安全保障上の不安や経済への悪影響が広がれば、国民の怒りは文政権にも向きかねない。文氏は演説で、韓国は日本と共に植民地支配による被害者の「苦痛を癒やそうとしてきた」と述べ、戦後補償問題で日本が一定の努力をしたと評価した。日本の世論を和らげ、元徴用工問題で強硬な安倍政権に態度変化を促したい思惑がうかがえる。

 だが、対話が実現したとしても双方が歩み寄れるかどうかは、なお見通せない。元弁護士の文氏は、日本企業に元徴用工への賠償を命じた昨年10月の最高裁判決を尊重する原則論を譲らない。1965年の日韓請求権協定で賠償問題は「解決済み」とする日本との溝は埋まらないままだ。

 文氏はこの日、日本側が求める元徴用工問題の対応策に触れなかった。高齢化する被害者の救済が進まず、原告側からも文政権への不満が漏れ始めている。文氏は自身が旗印とする「被害者中心主義」の自縄自縛に陥っているようにも映る。 (ソウル池田郷)

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■日本 前向きに受け止め

 韓国の文在寅大統領が15日の光復節の式典で、元徴用工問題などには触れず日本に対して対話と協力による解決を呼び掛ける演説をしたことについて、日本政府内では「批判が抑制的だった」と前向きに受け止める声が多い。

 「一時期の発言に比べて、モデレート(穏やかに)された」。岩屋毅防衛相は同日の閣議後記者会見でこう評価した。日韓の安全保障分野を巡っては、24日に期限を迎える軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を韓国が更新するかどうかが焦点になっている。日本政府は北朝鮮情勢をにらみ継続の意向を示しており、岩屋氏は「韓国側に(意向は)十分伝わっていると思う。延長して引き続き情報交換ができるような関係が望ましい」と述べた。

 文氏が元徴用工や慰安婦の問題に触れなかったのは、日本をこれ以上刺激しないためとの見方が大勢だが、一方で「問題解決の道筋が示されず、長期化する恐れもある」(政府関係者)との懸念もある。

 文氏は昨年の光復節でも元徴用工などの問題に触れず未来志向の日韓関係を強調した。しかしその後、元徴用工が日本企業を訴えた訴訟で韓国最高裁が企業に賠償を命じる確定判決を出したことをきっかけに関係は泥沼化した。このため「演説一つでは分からず、しっかりした話し合いの積み重ねが必要だ」(外務省幹部)と慎重な見方もある。

 輸出規制を巡っては、日韓双方が相手国を優遇措置の対象から外す事態に発展した。日本政府関係者は「光復節後、韓国とどれだけ冷静な話ができるかが関係改善の鍵」とみて、今後の韓国側の出方を注視する構えだ。

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