一つの言葉の訳し方が違っていれば、日本への原爆投下はなかったかもしれない-…

西日本新聞 オピニオン面

 一つの言葉の訳し方が違っていれば、日本への原爆投下はなかったかもしれない-。歴史に「もしも」は禁物だが、胸がざわつく仮説である。「歴史をかえた誤訳」(鳥飼玖美子著、新潮文庫)に詳しい

▼太平洋戦争末期、日本はポツダム宣言で降伏を迫られた。国内が「本土決戦」と高ぶる中、時の鈴木貫太郎首相は弱腰を見せられず、宣言を「黙殺する」と公表した。その9日後である。広島が劫火(ごうか)に焼かれたのは

▼「黙殺」は「知らないふりをして取り上げない」の意で、今なら「ノーコメント」か。だが、翻訳の際に「拒否」と解釈される英語が使われた。結果として原爆投下に踏み切る口実を与えたという推論だ

▼政治的に微妙な意味を含む言葉を外国語に訳すのは難しい。日本が韓国を輸出管理上の優遇対象国から外した問題で、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が使った「賊反荷杖」を日本メディアが「盗っ人たけだけしい」と訳して伝えた。直訳すれば「加害者の日本が、むしろ大口をたたくような状況を決して座視しない」ということらしい。翻訳次第で印象はずいぶん変わる

▼翻訳ではないが、米人気ドラマが「破壊する」という意味で「ナガサキする」という造語を使っていた、と本紙特報。真意は不明だが、胸を痛めた関係者もおられよう

▼戦争や外交に関わる言葉をどう訳し伝えるか。歴史を左右する可能性があると思えば、携わる者の責任は重い。

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