太平洋戦争で戦死した学徒兵らの遺稿集「きけ わだつみのこえ 日本戦没学生の手記」は…

西日本新聞 オピニオン面

 太平洋戦争で戦死した学徒兵らの遺稿集「きけ わだつみのこえ 日本戦没学生の手記」は累計200万部以上が読み継がれてきた。刊行から70年になる

▼数学者でエッセイストの藤原正彦さんは大学のゼミで学生に読ませたことがある。軍国主義に洗脳された人たち、と思っていた学徒兵が高い教養と精神を持っていたと知り、学生はショックを受けたという

▼戦地に向かう前、あるいは出撃前、哲学書や文学書などを読み返した学徒兵がたくさんいた。家族、友人、恋人に国を憂える手紙を残した人がたくさんいた

▼その一人、東京帝大生だった中村徳郎さんは、学徒出陣後の日々をひそかに大学ノートに記していた。兵舎で弟の克郎さんと最後に面会した時、立会人の目を盗んで託した。両親には福岡県・門司の旅館で最後の手紙を書き、南方の戦場に向かった

▼「真理への思慕を喪(うしな)って国家の隆昌はない」「教室へ還(かえ)って本来の使命に邁進(まいしん)したい」「爪と頭髪とは出発間際連隊へ残してきました」…。徳郎さんの日記や手紙も収めて「きけ わだつみのこえ」は刊行された。克郎さんは編集に携わった

▼徳郎さんの遺稿を、故郷の山梨県甲州市は今年3月、市文化財に指定した。軍事関連の構造物など戦争遺跡を文化財と位置付け後世に継ぐ取り組みは各地で見られるが、手記類が歴史資料として文化財となるのは珍しい。記憶に記録を重ねて風化を防ぐ。

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