九大芸術工学部、近未来の社会をデザイン 来春「未来構想デザインコース」新設 型にはまらない感性育てる

西日本新聞

 「新聞記事を書くのは、必ずしも新聞記者でなくてもいいのかもしれない」。九州大芸術工学部3年の森崇彰さん(20)は、そんなことを思っていた。ブログやツイッター、インスタグラム。今、多くの人がSNSを活用し日々、自身の「ニュース」を発信している。彼らが将来、新聞の書き手になったらどうか。さらにSNSでの会話も反映させて、一つの記事を完成させれば-。「今の新聞は一方通行。このやり方ならば読み手との双方向性が生まれる」。森さんが描く新しい新聞の形だ。

 7月、福岡市南区の同学部のキャンパスであった「未来構想演習」。39人の学生が「未来の新聞を考える」をテーマに各自アイデアを巡らせていた。演習では従来にない新聞の姿を、さまざまなアプローチから考えることが課されている。

 一人が考案したのは「飲む新聞」。ペットボトルに入った飲料水を飲み干すと、その日のニュースがスマートフォンなどに自動送信される仕組みだ。別の学生は「方言新聞」。記事を音声かつ、日本各地の方言で聞けるようにするという。

 この授業は学部再編に伴って来春、発足させる「未来構想デザインコース」を念頭に置く。問われているのは既存の媒体やルールなどにとらわれず、近未来の社会をデザインする創造性と発想力だ。担当の尾方義人准教授は「面白い視点もあるが、もう一歩先を考えてほしいと思うケースもある。教員側も発想を引き出す情報提供の仕方を考えないといけない」と話した。

危機感から原点回帰の改革

 芸術工学部の前身である九州芸術工科大は、技術の基礎である科学と人間精神の最も自由な発現である芸術を融合し、知識と芸術的感性を備えた「設計家」の養成を目指して創設された。半世紀前の話だ。

 卒業生には、イタリアのランボルギーニなど世界的名車のカーデザイン担当やコンピューターグラフィックアートの第一人者、新国立劇場の音響設計担当ら国際的に活躍する人材が少なくない。近年でも、ピンク色のクマなどのキャラクターが電子メールを運ぶソフト「ポストペット」の発案者、若者に人気の漫画家、2020年東京五輪の招致映像担当など多彩だ。

 こうした著名人も、感性を磨きつつ、流体力学など工学の基礎学習といった総合的な学びを大学教育で培ってきた。

 ただ、未来構想デザインコース長を務める古賀徹教授は「最近の学生は受け身で、自分で発想するという事が足りていない」と危機感を抱く。九州大との統合(2003年)に伴って「芸術工学を掘り下げたい」より「九州大に入りたい」といった学生も増えていると感じるという。

 大学側にも反省はある。各学科の専門性を高めてきた一方で、カリキュラムの横断性という学びの自由度が硬直化。「それぞれの分野の水準は高くなっても教えることがマニュアル化してしまう。そこから新しいものは生まれにくい」と古賀教授。こうした現状が開学以来初の再編という大なたを振るう背景にある。

創造性と発想力を磨く

 未来構想デザインコースは、基礎的な「アート・デザイン」のほか、「社会構想」や「生命・情報科学」を柱にしたカリキュラムで授業が構成されている。

 これまでにない授業も多く、宮沢賢治の童話「注文の多い料理店」のロゴや製品をデザインする「デザイン設計論・演習」、自分と意見の違う人との共存の手法を学ぶ「クリティカルシンキング」、言語ではなく、体を使って表現する「身体表現演習」などがある。古賀教授は「何の役に立つのかと思われるかもしれないが、デザインしたり、技術を考えたりする上で必ず必要となる能力」と話す。

 人工知能(AI)の発達で2045年にも人の知性を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)が到来するとされ、サービス業や製造業、建設業など多くの仕事がなくなるといわれる。

 しかし、AIをどういう思想に基づき設計し、どう使うかを決めるのは人。そのためには社会全体を見て判断する力が必要となる。古賀教授は言う。「求められているのは『何を』でなく『いかに』デザインするか。学部再編は『ルネサンス(再生)』。自由な発想を生み出せる人材を改めて育てたい」

九州大芸術工学部】1968年4月、芸術工学(デザイン)を本格的に研究、教育する日本初の国立単科大学、九州芸術工科大として創設。2003年に九州大と統合した。来年4月から現行の5学科を1学科に再編し(1)環境設計(2)インダストリアルデザイン(3)未来構想デザイン(4)メディアデザイン(5)音響設計-の五つのコースを設置。募集定員は従来と変わらないが志願者はセンター試験受験後の出願時に学科一括入試(定員20人)か、コース別入試(同計167人)を選ぶ。一括入試の合格者は2年次にコース選択する。

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