【財をあなたに 家族信託考】(下)高額支出の歯止めとして

西日本新聞 くらし面

 認知症の人の財産管理や相続、障害がある人の「親亡き後」に役立つ家族信託。活用できる場面は他にも多く、親族や友人に財産を託す例もある。

 叔母は高齢で判断能力が落ちている。宗教団体にたくさん寄付し、高い布団も買っていた。貯金を使いすぎると、施設に入るお金が足りなくなるのだが-。

 関東地方の男性(44)は、福岡市の叔母(82)が心配でならない。独身で、持ち家に1人暮らし。先々は設備が整った高齢者施設に入りたいと思っている。

 その様子が最近おかしい。家を訪れると、宗教団体に寄付したことを示す文書があった。預金通帳に300万円ほど引き出した跡がある。「家の空き部屋を使わせてもらえないか」とも頼まれたという。宗教団体とは別に、数十万円の布団を買ったこともあった。

 男性は不安になり、財産管理のセミナーを受けた。そこで家族信託を知り、同市で実績がある司法書士、柳橋儀博さん(39)=福岡県糸島市=に相談した。

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 柳橋さんはまず、成年後見制度の「法定後見」の利用を勧めた。高額な契約をしても、本人に不利益なら取り消すことができるためだ。近くに親族がいないのも理由だった。

 しかし、叔母は身内以外に心を開かないところがある。最高裁判所のまとめでは、法定後見で判断能力が十分でない人を保護する成年後見人などは、7割以上が親族以外から選ばれている。他人が家の事情に入り込むことを嫌がる恐れがあった。

 そこで男性と本人とともに、家族信託の準備を進めた。(1)叔母の家と金銭は男性が管理し、施設入所に必要なら家は売却できるようにする(2)本人の死亡後、残った財産は男性と、その弟が半分ずつ相続する=イラスト=という内容だ。

 信託する金銭は、預金2千万円のうち1900万円ほどとし、専用の口座に移して男性が管理する。残った本人の預金口座は生活費や年金の振り込み用とする。1900万円が入った口座から自由にお金を引き出すことはできず、高額な支出を防げる。認知症になれば、成年後見を利用することも検討中という。

 「このまま寄付を続ければ、施設に入れても途中でお金が足りなくなる計算だった。家族信託がその歯止めになった」と柳橋さんは振り返る。

 第三者の支援を拒む人に、身内がセーフティーネットの役目を果たす。家族信託は、そんな成年後見に準じた働きもありそうだ。

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 大切な財産を友人に譲るのに、家族信託の仕組みを使った例もある。

 自分が亡くなったら、財産はお世話になった友人に全て譲りたい。でも推定相続人が2人いるようだ。会ったこともないのに-。

 女性(83)は独身で、財産の承継先に悩んでいた。今は北九州市の友人の女性(70)宅で暮らす。飲食店で一緒に働いた関係。付き合いは50年続く。

 女性はもともと親戚宅に身を寄せていたが、トラブルになり、友人が引き取ってくれた。体調を崩したのを機に財産を譲ることを考え、福岡市の司法書士、橋本雅文さん(44)に相談。戸籍から、面識のない親族2人が推定相続人に当たることが分かった。

 このまま亡くなり、遺言もないと、親族2人が遺産分割協議に参加することになる。友人は女性をみとる覚悟もできていた。そこで橋本さんは、友人が女性の財産を管理して活用し、死亡後に承継する信託契約を組んだ。成年後見の「任意後見」を利用し、後見人にもなってもらった。

 遺言では、信託契約を結んだ財産以外も全て友人に譲ると記した。橋本さんは「友人が信頼できると判断できたので、信託契約を結べた。会ったこともない親族でなく、友人に財産を譲りたいという相談は他にもある」と語る。

 家族信託は、成年後見でカバーできない隙間を埋め、身内以外にも財産を引き継ぐことができる。「財産をあなたに託すので、私や大切な人に役立ててほしい」という当事者の思いを生前から次世代につなぎ、関係者全員でかなえる。そんな「家族」の力が問われる方法なのかもしれない。

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