ロヒンギャ「まず国籍を」 30年帰還かなわぬ男性も

西日本新聞 国際面

故郷を追われた同胞を心配するタイ在住ロヒンギャのサイードさん=バンコク 拡大

故郷を追われた同胞を心配するタイ在住ロヒンギャのサイードさん=バンコク

 ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大量に逃れるきっかけとなった治安当局との衝突から25日で2年。22日にも一部帰還が始まる予定だが、ミャンマー政府はロヒンギャ側が求める国籍付与を認めない構えで、事態打開につながるかは不透明だ。これまでも繰り返されたロヒンギャの海外流出。タイに暮らすロヒンギャに思いを聞いた。 (バンコク川合秀紀)

 宝石商のサイードさん(50)は、ロヒンギャの多くが暮らしてきたミャンマー西部ラカイン州の出身。1989年、密入国の形でタイに逃れた。「1、2年で戻れると思っていた。30年もタイに暮らすことになるとは」。商売の傍ら、国内外のロヒンギャを支援する団体の代表を務めるが、国籍はもちろん、タイでの身分証明書もない「不法移民」の状態が続く。

 バングラデシュに逃れて難民キャンプにいる親類らと会員制交流サイト(SNS)で連絡を取っているが、状況は悪化していると感じる。「キャンプに来る難民が増え続けているため、支援物資や医療の格差が生まれてしまっている」

 海外に逃亡せずミャンマーに残るロヒンギャは、戦闘が断続的に起きる危険と隣り合わせで暮らすか、当局が厳しく行動を管理する国内キャンプに入るかを迫られる。サイードさんの兄弟6人も2年前に衝突が起きたラカイン州内に今も住んでいるが、政府は治安悪化を理由に6月21日から州内などでのインターネット接続を停止している。

 「SNSで写真や映像をやりとりできなくなり、私も兄弟も不安だ。通話はできるが、国際電話料金が高いから最小限の話しかできず寂しい」

 ラカイン州では最近、他の少数民族勢力と国軍の戦闘が激化している。サイードさんの知人スライマンさん(27)も同州に残る親類との通話中、爆発音や銃声が聞こえ「『どこに逃げたらいいの』と言われて、つらかった」と明かす。

 ロヒンギャはこれまでも、住民同士の争いなどを機に何度もバングラデシュやタイ、マレーシアなどに逃れてきた。背景にあるのは、ロヒンギャへの根深い差別。かつてはロヒンギャの国会議員や閣僚も存在したとの資料を示しながら、サイードさんは憤る。

 22日に予定される帰還は実現するかどうか不透明だ。サイードさんは「帰還は後回しでいい。求めているのは政府が治安を取り戻し、ロヒンギャに国籍を認める、それだけ」。タイへの逃亡から30年。それでも「状況が改善されたらすぐに帰りたい」と思う。

■強まる国軍への国際圧力

 ロヒンギャ問題を巡り、ミャンマーへの国際的な圧力は強まる一方だ。

 米国務省は7月16日、ミャンマー国軍のミン・アウン・フライン総司令官ら幹部に対し、ロヒンギャ迫害に関与したとして渡米を禁じる制裁を発動した。

 国連人権理事会の調査団は今月5日に発表した報告書で、国軍とつながりのある企業と合弁事業や取引を行っている日本などの外国企業リストを公表。軍による人権侵害を間接支援する形となるため、取引を控えるよう要請した。複数の地元メディアによると、実際にベルギーの通信関連企業が軍関連企業との取引中止を決めたもようだ。

 一連の圧力が国軍をターゲットにするのは治安部門を担当し、政権に大きな影響力があるとみられるためだ。ただ、アウン・サン・スー・チー国家顧問率いるミャンマー政府は「(報告書は)断固として拒否する」などと主張し、国軍との歩調を合わせている。

 バングラデシュに流出したロヒンギャの帰還は昨年1月と同11月にも計画されたが、ロヒンギャ側が拒否し、実現しなかった。東南アジア諸国連合(ASEAN)は6月の首脳会議で難民帰還を促す声明を出したほか、日本政府も河野太郎外相が度々ミャンマーを訪問し、帰還を支援する考えを示している。

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