黒田総裁発言揺らぐ信頼 目標先送り6回、説明も変節

西日本新聞 国際面

 物価上昇率2%の目標達成が遠のく中、日銀の黒田東彦総裁の発言に対する市場の信頼が揺らいでいる。就任直後の2013年4月、2年程度での2%目標の達成を約束し大規模な金融緩和策を打ち出したが、7年目を迎えた今も未達成。世界経済の先行き懸念の強まりを受け追加緩和を強く示唆するが、緩和条件についての説明も変節を重ねており、市場は次なる「黒田バズーカ」があるのか疑いの目を向けている。

 「物価のモメンタム(勢い)が損なわれる恐れが高まる場合には、ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」。7月末の金融政策決定会合後の記者会見で、こう繰り返した黒田総裁。自身の発言について「かなり踏み込んだ言い方だ。従来よりも、かなり金融緩和に前向きになった」と解説までしてみせた。

 黒田総裁は2%目標の「達成」に必要な措置として、16年7月まで追加緩和を繰り返した。だが、2%目標に届かないばかりか、金利低下で金融機関の収益悪化が深刻化。政策の手詰まり感が出てくると黒田総裁は、追加緩和は2%目標の達成ではなく、それに向けた物価上昇の勢いを維持するための措置であると説明を変えた。

 ここにきて黒田総裁は、2%目標への勢いが損なわれるのを未然に防ぐ「予防的」な追加緩和の可能性に踏み込んだ。米連邦準備制度理事会(FRB)が7月末、米中貿易摩擦による経済減速を予防するため利下げに転換。日米の金利差縮小で円高の懸念が高まり、日銀もFRBに追随するとの見方は強まっている。

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 2%目標に向けた勢いは「維持されている」と一貫して主張する黒田総裁。ただ、昨年4月の経済・物価情勢の展望リポートでは、それまで明示していた2%目標の達成時期を削除。目標を6度も先送りし「19年度ごろ」としていたが、時期を見通せない現実を認めざるを得なかった。

 日銀はその後も3カ月に1度見直すリポートで、物価上昇率予想の下方修正を繰り返している。市場の一部では「日銀の『展望』ではなく、『願望』リポートだ」とやゆされ、日銀内部からも「もはや2%達成は厳しい」(政策委員)と冷ややかな声が上がる。

 それでも、大規模金融緩和は安倍政権の「アベノミクス」の看板政策。黒田総裁は2%目標を撤回するわけにはいかず、追加緩和姿勢を強調せざるを得ない状況に陥っている。仮に2%目標の厳しさを認め、大規模緩和策からの正常化を始めると、金融資本市場が一気に不安定になるリスクがあるためだ。金利上昇で急速な円高が進み、上場投資信託(ETF)の購入と円安で支えてきた株価が急落する恐れもある。

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 黒田総裁は16年2月にマイナス金利を導入する際、直前まで否定的な見解を示したことを批判された経緯がある。緩和メッセージは通常なら円安に作用するが、7月30日に黒田総裁が予防的追加緩和に言及した後も円高傾向が進行。度重なる約束の不履行で黒田氏の言葉は重みを失っており、市場からは「円高回避を狙った発言」と見透かされている。

 東短リサーチの加藤出社長(チーフエコノミスト)は「(黒田総裁は)言葉の信認を失っており、日銀を信頼することで人々のインフレ期待を上げるという金融政策の効果が弱まっている」と指摘。物価目標と政策手段を見直すための総括的な検証を経て「今後の対策を素直に議論すべきだ」と話している。

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