日韓外交当局シナリオ崩壊 GSOMIA破棄

西日本新聞 総合面

 対立が深まる日韓関係で、双方の外交当局が政権内で立場を失いつつある。両国の外務省は軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)延長の必要性で一致していたが、韓国側では国防省が大統領府を説得できず、想定外の破棄が決定。日本外務省は文在寅(ムンジェイン)政権の強硬姿勢を予測できず、首相官邸に突き放された。感情的な対立を落ち着かせようと「裏方」が描いたシナリオは崩れ、政治主導の報復のエスカレートを止められないでいる。

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■日本、読み違えに官邸不信

 「韓国側が破棄するという情報を全くつかめていなかった。外務省が上げる情報を信じていたようだ」

 韓国政府による協定破棄が伝わった22日夜、政府関係者は首相官邸の内情をこう明かした。官邸サイドは外務省の読み違いにあきれ顔で、安倍晋三首相も「相当ご機嫌斜めだった」という。

 日韓関係が悪化する中で、双方の外務省は対話を続けてきた。韓国の文在寅大統領が15日の光復節演説で対日批判を抑制したのを契機に、事態を落ち着かせることで双方が腹合わせ。協定の継続を緊張緩和の糸口にするシナリオだった。

 「協定継続は大丈夫だという感触を得た」。21日に北京で韓国の康京和(カンギョンファ)外相と会談した河野太郎外相は、周囲にこう語っていた。情報は官邸にも上がっていたとみられる。ところが韓国政府の結論は「破棄」。外務省の信頼は失墜し、官邸からは「話が違う」「何をやっているんだ」と非難の声が上がる。

 安倍政権は官邸主導で外交方針を決めることが多い。韓国に対する輸出規制強化の決定も官邸と経済産業省が主導し、外務省は知らされていなかった。今回の読み違いは決定的で、今後も外務省が「蚊帳の外」に置かれる可能性は高い。

 「韓国の協定破棄も大統領や側近がごり押ししたんだろう。日本も韓国も同じ構造だ」。政府関係者は報復の応酬に陥った日韓関係をそう分析する。両国ともにブレーキ役となる外交当局が政権の意思決定に関与できず、対立がエスカレートしていく。

 首相は23日、官邸で記者団に「信頼関係を損なう対応が残念ながら続いている。韓国側が続けている」と韓国政府を強く非難した。外務省幹部は力なくつぶやく。「15日の光復節を過ぎ、いい雰囲気になっていくかと思ったが…。振り出しというか、後退したかもしれない」 (塩入雄一郎、湯之前八州、古川幸太郎)

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■韓国、最終段階で方針転換

 「国防省は強力に反対したが、受け入れられなかった」。韓国の文在寅政権の与党「共に民主党」の議員は23日、そう述べ、日本とのGSOMIAの破棄を決めた22日の国家安全保障会議(NSC)の内幕を明かした。

 鄭景斗(チョンギョンドウ)国防相が21日の国会答弁で「GSOMIAの戦略的価値は十分だ」と協定の重要性を強調した翌日の決定だけに、韓国では最終段階で方針が翻ったとの見方が大勢を占める。

 革新系団体などは協定破棄を歓迎。釜山では23日、日本総領事館前で労働組合系団体のメンバーらが「安倍政権の経済侵略と戦う」と声を上げた。韓国紙・中央日報は同日付で「韓国の安全保障の軸である韓日米3カ国の協力を揺るがす」と懸念を示すなど韓国世論は二分している。

 今回の決定に先立ち、文氏は日本統治からの解放を祝う15日の演説では日本批判を抑制していた。一転して対決色を強めたことについて、韓国大統領府の戦略性の欠如を指摘する声もある。知日派の大学教授は「大統領府内の対日強硬派と融和派の意見がまとまらず、一貫性を欠いている」と予測する。

 協定破棄は、日韓の安保協力体制にとどまらず、米韓の同盟関係にも影響を及ぼす。慶応大の西野純也教授(朝鮮半島政治・外交)は「文政権は当初から南北関係の改善による朝鮮半島の平和実現を目指しており、日米韓の安全保障上の枠組みを必ずしも積極的に評価していない」と決断の背景を分析する。

 文政権は現在、米軍が行使している朝鮮半島有事を想定した戦時作戦統制権について、2020年代前半までの韓国軍移管を目指すなど米軍との関係見直しを検討する。大統領府は23日「さらに強固な同盟関係になるよう努力していく」と強調しつつ、国防費を増額する方針を国民に示した。 (ソウル池田郷、釜山・前田絵)

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