患者 家族 医療者 治療方針繰り返し話し合い 鹿児島発「ACP」に全国注目 相良病院 江口恵子緩和ケア支援センター長に聞く

西日本新聞 医療面

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「患者さんが大切にしていることを共有したい」と話す江口恵子さん

相良病院で使っている質問紙の内容(一部抜粋)

 ●質問紙はきっかけ、価値観大事に

 医療者と十分に話し合いながら、治療を進められていると思いますか-。そんな問いから始まる特徴的な質問紙を治療に活用しているのが、乳がん患者が多く通う相良病院(80床、鹿児島市)。治療方針について患者と家族、医療従事者が話し合って決める「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」を国が推進する中、有効な取り組みとして全国的な注目を集めている。質問紙の導入から定着まで中心的な役割を担ってきた同病院の緩和ケア支援センター長・江口恵子さん(69)に話を聞いた。 

 -「胃ろうをしますか」「人工呼吸器を希望しますか」などという“定番”の質問は一切ない。コミュニケーションの満足度や患者の支え、大切にしていること、気掛かりなどを尋ねている。

 「専門知識の差があるため、コミュニケーションはともすれば医療者側が優位になりがち。患者さんは説明を聞いているように見えても、動揺して内容が頭に入っていないことも多い。質問紙は話を始めるきっかけ、準備だと位置づけている」

 「具体的にどんな治療を受けたいか、受けたくないかという話もするが、まずは患者さんが何を大切にして生きているのかを知りたい。それを大切にした上で治療を考えていきたいと、2013年に導入した」

 -例えば患者は何を大切にしていて、どう治療に反映させるのか。

 「30代で乳がんになった女性は、笑顔を大切に過ごしてきたと明かしてくれた。だから『笑顔を忘れるほどの苦痛を感じる治療を受けようとは思わない』と言った。私たちも十分な緩和ケアを重視した」

 「彼女の一番の気掛かりは母親にどう病状を伝えるかという点だとも分かった。家族の中で自分が最もしっかりしており、誰にも甘えることはできないと考えていた。そこで主治医が母親と面談して状況を伝えたことで、母親にも分かってもらえ、距離が縮まったように感じたと話してくれた」

 -一方で、心に立ち入るような質問を嫌がる患者もいるのでは。

 「質問紙を活用した患者さんの1割ほどが『心理的な負担になる』と振り返った。患者さんに無理に回答を促すことはない。『私たちが聞きたいこと』ではなく、『患者さんが疑問に思っていること』を解消するような話から始めていくと、だんだん気持ちがほぐれてくることもある」

 -質問紙には「回答はいつでも変更できます」とある。

 「気持ちが揺れるのは当然で、変化の過程に寄り添いたい。ある患者さんは治療の希望について『副作用が少ないこと。抗がん剤には抵抗がある』としていたが、2週間後には『生活の質を大切にしたい。副作用は絶対に許容できないわけではない』。さらに3カ月後には『やってみなければ副作用は分からないから受けてみようかな』と変化した。質問紙や話し合いを通して、家族に遠慮して言えていなかった本心に気付いたという人もいる」

 -医療関係者の関心が高く、講演の依頼も多い。

 「特別な人員を配置して実施しているわけではない。日々の診療の中でやっているので、他の病院でも取り組むことは可能。講演では質問書の回答を得ることが目的ではない、それをきっかけに話し合うこと、価値観を共有することが大事だと強調している」

 ▼えぐち・けいこ 国公立の病院や看護学校などで看護師と教員の経験を重ね、2010年に相良病院の副院長、総看護部長に就任。18年から現職。

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 【ワードBOX】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)
 治療やケアの方針、どのような生き方を望むのかなどを日頃から繰り返し話し合うこと。心身の状態の変化に応じて意思は変化するため、その過程も患者、家族、医療・介護関係者などで共有する。欧米で普及。厚生労働省の調査(2017年度)ではACPを実践していると回答した病院は国内では3割に満たない。同省はACPに「人生会議」という愛称を付けるなど周知に努めている。

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