変わるハンドル 安全運転考(1)飲酒 8・25「人ごと、みたいな」

西日本新聞 社会面

 教官は「飲酒運転は危険」と強調し、ホワイトボードに赤ペンで「8・25」と記した。今月中旬、福岡市南区の自動車学校「マイマイスクール花畑校」の教室。仮免許を取得した10~20代の18人に「ぴんときた人は?」と尋ねた。誰ひとり手を挙げなかった。

 2006年8月25日。同市東区の海の中道大橋で飲酒運転の車に追突されたRVが海に転落し、幼いきょうだい3人の命が奪われた。

 「知らんかった。飲酒運転の話なんかしたことない」。事故当時6歳だった女子大学生の2人組は口をそろえた。男子大学生(18)は「似たような事故ばかりで記憶に残らない。人ごと、みたいな」。

 教官の長谷部大介(39)は「最近、若い教習生の反応が薄い」と感じている。新聞や写真を使って事故を伝えても手応えはない。真剣さが読み取れた以前とは明らかに違う。

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 「けんかをした彼氏に会いに行こうとした」

 22歳の女は今年4月、アルバイト先で飲酒、1時間後にハンドルを握った。市内で追突事故を起こし、車2台の4人にけがをさせて逃走。1週間後、自動車運転処罰法違反と道交法違反の疑いで逮捕された。今月、福岡地裁で懲役2年、執行猶予3年の判決を受けた。

 軽い気持ちで飲酒運転する若者が増えている。福岡県で飲酒運転事故に占める10~20代の割合は13年の10・5%(18件)から、18年は22・2%(32件)に倍増した。

 「3児死亡事故のことを知らず、飲酒運転の恐ろしさが伝わっていない」(県警幹部)。新聞やテレビニュースをあまり見ない若者に「8・25」の啓発イベントは響きにくい。

 県警は今年1月に全国の警察に先駆け、視界が狭まるなど飲酒運転を仮想現実(VR)で疑似体験する機器を導入。21日に市内の商業施設で体験会があり、男性会社員(23)は「思ったより視界がぼやけて怖い」と驚いた。体験会は高校などで約150回開いた。

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 3児死亡事故後、飲酒運転根絶の「切り札」と期待された安全装置がある。ドライバーの呼気にアルコール分を検知するとエンジンがかからない「インターロック」。米国の大半の州は飲酒運転で摘発された人には取り付けを義務付ける。

 日本では普及は進んでいない。09年から国内で唯一製造・販売する東海電子(静岡県)の出荷数はピークの11年486台から18年129台に減った。

 内閣府は10年の報告書で1台十数万円という価格などを理由に「自主的な活用を促す」にとどめた。飲酒運転事故で長男=当時(31)=を亡くした同市西区の松原道明(72)は「積極的になるべき国がやらない」と本気度を問う。

 飲酒ひき逃げ事故で次男=同(24)=を失った大分県国東市の佐藤悦子(67)は自らに言い聞かせた。「若い子にどう伝えるか。いま一度考えていかないと」

 事故から13年。「風化」や「慣れ」を見直したい。もう一度、自分の事として「飲酒運転ゼロ」を。 =敬称略

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 交通事故の死者は減り続けている。一方、飲酒運転や高齢ドライバーによる事故、子どもの被害など安心には程遠い。令和の交通問題を考える。

 10~20代の交通事故件数 警察庁によると、2018年に16~29歳が起こした事故は8万8500件(全体の21.8%)だった。うち死亡事故は504件(同16.3%)。運転免許証を保有する10万人当たりの死亡事故は4.6件。年代別では、10代の11.4件が最多で、80歳以上の11.1件が続いた。

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