クレタ島(ギリシャ) 神々の島で「迷宮」を歩く

西日本新聞 夕刊

 夜が明けると、まだ青が深い海に神話の島が横たわっていた。

 ギリシャ最南端に位置するクレタ島。ヨーロッパ最古のミノア文明の発祥地であり、詩人ホメロスは「葡萄(ぶどう)酒色の大海(エーゲ海)にクレタなる土地」とうたった。海の神ポセイドンを欺いたミノス王の伝説、ミノタウロスの迷宮や英雄テーセウスの冒険…。子どもの頃に読みふけった物語の舞台が、ここにある。

 最大都市イラクリオンの港から上陸。郊外へ車で30分ほど走ると、ミノア時代(青銅器時代)最大の遺跡クノッソスに着く。ミノス王の伝説が残り、1900年に英国人の考古学者アーサー・エバンズ(1851~1941)が発掘した宮殿跡だ。

 史跡として整備され、入場料は15ユーロ(1ユーロ=約120円)。エントランスを抜けると石畳の西宮庭が現れ、これを回り込んで南側から内部に進む。約2万2千平方メートルの宮殿跡は大半が崩れ落ちた廃虚だが、往時は中央宮庭を挟み、西翼に政治や宗教儀式の場、東翼に王家の住まいや工房があったという。

 ギリシャ神話では、クレタのミノス王はポセイドンにささげると約束した美しい雄牛を惜しみ、別の一頭にすり替えたために怒りに触れる。王妃は雄牛を追い回して交わるよう呪いをかけられ、生まれたのが牛頭人身の怪物ミノタウロス。王は宮殿の地下に迷宮を築き閉じ込めた。

 「遺跡から迷宮は見つかりましたか?」。神話や伝説に関心があれば、まず聞かずにはいられないだろう。ガイドの女性は笑いながら「ノー」。毎回必ず聞かれるという。

 伝説が生まれた背景については「二つの説」があるそうだ。一つは宮殿自体の複雑な構造。西翼は3階建て(一部4階)、東は地階を含め5階層あり、部屋数は千以上とも1500室ともいわれる。もう一つは巨大な貯蔵庫。内部に細かく仕切りが入った構造が今も確認でき、迷宮のイメージにぴったりだ。

 ミノア文明では紀元前2000年ごろから島内各地に宮殿群が現れたという。王たちは強大な海軍と交易船団を擁して地中海東部を制し、同18~16世紀ごろ絶頂期に達する。最も栄えた宮殿がクノッソスだが、空漠とした遺跡から往時をしのぶことは難しかった。

 遺跡見学の後、市街地にあるイラクリオン考古学博物館へ。ここには、クノッソスからの出土品が収蔵されている。「雄牛跳び」「ユリの王子」「パリジェンヌ」など有名なフレスコ画のオリジナルが並び、蛇の女神の小立像や牛頭のリュトン(儀式用の角杯)なども展示されている。

 目を引いたのは、クノッソスの巨大な復元模型。展示台の前に立ち、宮殿の全容を俯瞰(ふかん)してみれば、迷宮伝説が生まれた訳が自然と分かる気がした。

●メモ

 エーゲ海の南限に位置し、地中海では5番目に大きな島。面積は約8300平方キロで、福岡県と佐賀県を足したよりも広く、兵庫県の広さに相当する。ギリシャの首都アテネから空路で約50分、海路で約10時間。島内にはフェストス、マリアなどにも宮殿の遺跡がある。イラクリオン考古学博物館の一般入場料は10ユーロ。

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