【財をあなたに 家族信託考】既存の制度を補完、今が成長期 争い防止は専門家の責務 「家族信託ふくおか」 野島香苗さん

西日本新聞 くらし面

 財産の管理や活用を、信頼できる身内に託す家族信託。普及の背景に何があり、今後はどんな課題があるのか。福岡高裁や福岡家裁久留米支部の判事、公証人を務めた経歴を持ち、任意団体「家族信託ふくおか」(福岡市)のメンバーである野島香苗さん(61)=福岡県春日市=に聞いた。

 -家族信託の特徴を。

 「民法で実現できないことが可能になる。民法上の成年後見制度や遺言、相続は、利用できる時期が死を境に分断されてしまう。信託は認知症になっても亡くなっても中断されず、跡継ぎに託すこともできる」

 「成年後見は財産の運用ができないが、家族信託は契約範囲内で活用できる。また、遺言は自分が財産を相続させたい人を指定できても、その次の承継先を決める『2次相続』はできない。家族信託なら2次相続以降も行き先を決められる。財産管理、承継で成年後見や遺言を代用できる」

 -普及の要因は。

 「私は家族信託ができるようになった2007年に公証人になったが、それから数年、信託契約を公正証書で作る人はほぼいなかった。専門家にノウハウがなかったからだと思う。一方で成年後見は『財産に手出しできなくなる』とされ、利用がそれほど伸びない。そんな中、徐々に専門家の間で家族信託のノウハウができ、顧客に提案できるようになったのではないか。今はニーズの掘り起こしの時期で、成長期にある」

 -財産管理を託される「受託者」の責任が重い。

 「家族信託は信頼できる家族がいないと難しい。信託法は、受託者が財産に損害を与えた場合、恩恵を受けるはずの『受益者』が穴埋めを求めることができる-と定める。ただ、不正は予防が大切。司法書士などの専門家に、受託者の業務を点検する信託監督人や、受益者の権利行使を助ける受益者代理人になってもらうといい。受託者の仕事を専門家が一部代行するのも有効だ」

 -家族信託の契約後、トラブルになる例もある。

 「契約前に家族や推定相続人を含めて十分話し合い、了解を得ることが大切。どこまで声を掛けるかによるが、家族プラスアルファで話しておくといい」

 「財産管理を頼む『委託者』が亡くなった場合、信託の内容次第では、契約のメンバーに入らなかった法定相続人が、最低限もらえる遺産『遺留分』を受益者などに請求する可能性がある。これに備え、遺留分用の資金を信託財産と別に用意しておくといい。また、委託者の生命保険の受取人を、遺留分の請求を受ける受益者などに変えておき、相続発生後に求められたら充てる方法もある。これらのトラブル防止策を取れるかは専門家の力量にかかっており、家族を争いに巻き込むことは絶対に避けるべきだ。トラブルが続くと、家族信託が社会から認知されなくなる」

●委託者の思い優先、家族とじっくり考える

 家族信託の利用は、司法書士などの専門家に相談するのが第一歩になる。多くの事例を研究する専門家の団体「家族信託ふくおか」によると、信託と既存制度を交え、最適な方法を考えてもらえるかが鍵という。

 家族信託専門の国家資格はなく、現在は司法書士や行政書士、税理士、弁護士などが主に受け付けている。これらの専門家が、必要な研修を通じて得られる民間資格を持つかは目安の一つ。他の専門家や金融機関などと連携しているかも判断材料になる。事例を集め、解決法を研究していると心強い。

 注意したいのは、委託者の思いを最優先にせず「受託者ありき」でも契約する例。トラブルになる恐れがあり「ふくおか」ではこうした依頼を断ることもある。メンバーの司法書士、橋本雅文さん(44)は「家族信託だけにこだわらず、遺言や成年後見制度の任意後見などを交え、最適な方法を家族と一緒に探ることが大切」と強調する。

 任意後見だけで対応できる相談もあるため、家族信託だけを勧められたり、急いで契約するよう言われたりしても要注意。委託者と面談し、丁寧に説明してくれる専門家を選びたい。

 また、信託が孫の世代まで続くなど長期に及ぶ場合、契約内容を作ってくれた専門家が途中で亡くなることもある。一般社団法人「民事信託監督人協会」(東京)は、家族信託を利用した家庭を支援しており、こうしたサービスを利用するのも選択肢の一つだ。

 家族信託ふくおか=092(532)1248

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