変わるハンドル 安全運転考(3)認知症 衰え 医療の力で支えて

西日本新聞 社会面

 福岡県大野城市に住む村井忠彦(77)=仮名=の軽乗用車は傷だらけだ。あちこちぶつけるから妻の妙子(76)=同=に鍵を隠された。運転免許の更新に必要な認知機能検査は100点満点で8点。「認知症の恐れ」とされた。7月、妙子に促され免許を返した。

 国は、認知症の高齢者が2025年に約700万人に達すると推計する。5人に1人という身近な病だ。

 検査は75歳以上に義務づけられ(1)認知症の恐れ(2)認知機能低下の恐れ(3)問題なしに分類。昨年検査を受けた216万5349人のうち(1)は5万4786人(3%)(2)は53万1057人(25%)だった。

 (1)は認知症と診断されると回復の見込みに応じて免許取り消しか停止。65%は忠彦のように更新を諦める。(2)は3時間の講習を受けると更新できる。

 「認知の衰えはわからん」。忠彦は納得していない。

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 「絵を覚える問題は全部暗記する」。関東に住む島田強(44)=同=は今春、離れて暮らす父恭一(79)=同=に言われた。福岡市の大型書店には「認知機能検査問題全て掲載」とうたう対策本が何種類も並ぶ。

 恭一は数年前から物忘れが増えたが、対策を4カ月間繰り返して検査をクリアした。でも、運転はブレーキが遅れ、停止線を越えて横断歩道で止まる。「ペーパーテストで事故を防げるのか」。強は複雑だ。

 認知症は診断が難しい。医師が「問題ない」と診た後に、歩行者と衝突事故を起こした80代男性もいる。別の医師が認知症の中で幻視を伴うレビー小体型と診断した。「検査は症例が多いアルツハイマー型が主眼。レビーなどは見抜けない可能性もある」と危ぶむ。

 検査は何度でも受けられ、6回受けた人もいる。警察庁によると、(1)の15%は再受検で(2)や(3)に判定が変わった。高知大の上村直人講師(老年精神医学)は「運転技能を評価する仕組みが必要」と話す。

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 17年10月、高知市の愛宕病院は、認知症の疑いがある患者専門の「自動車運転外来」を全国で初めて開設した。市中心部にあるが、公共交通は乏しい。車で通院する患者も多い。医師の朴啓彰(63)=交通医学=が「暮らしが成り立つよう、長く運転できるよう支援したい」と始めた。

 患者は、計算しながら軽い運動をこなして脳を活性化したりする。これまで31人が受診し、「認知症の恐れ」とされた12人を含む23人は運転を継続する。

 今年8月下旬、酒井正三(82)=仮名=は運転シミュレーターで発進や停止、速度など大半は「優秀」と判定された。

 記憶障害がある酒井は2年前から、2週間に1度通う。サイドブレーキや方向指示器を忘れる回数が減り、スピードも出さなくなった。ハンドルには「アクセルとブレーキを踏み間違えない」と注意書きも貼る。「車で毎日外出できて、張り合いがある」と喜ぶ。

 朴は言う。「移動の自由は大切で免許は尊厳。返納までにやれることがある」

 誰もが衰え、病む。人生の「充実」と「納得」のため医療の現場も模索する。

 =敬称略

 認知症 100種類以上の疾患があり、大きくは(1)アルツハイマー型(2)レビー小体型(3)前頭側頭型(4)血管性-に分かれる。記憶障害を伴うアルツハイマー型は一時停止や道を忘れるケースがある。レビー小体型は道路がゆがんで見える幻視を引き起こす可能性がある。前頭側頭型は他人の気持ちに配慮できず、トラブルになる恐れがある。血管性は動作や思考が緩慢になることもある。

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