男性育休、どうすれば?

西日本新聞 くらし面

 長期休暇を言い出せない職場の雰囲気、キャリアへの影響、収入減少への不安…。男性の育児休業取得が進まない背景にはさまざまな理由があるようです。育休後に苦しむ人もいます。6月には、大手化学メーカー社員の夫が育休明けに転勤の内示を受け、退職に至ったという妻のツイッターの投稿が反響を呼びました。復帰後の不当な扱いはパタニティーハラスメント(パタハラ)だとして会社を提訴する事例も相次いでいます。誰もが無理なく仕事も子育てもできる社会にするために、何が必要なのでしょうか。

 ●制度は「世界一」でも… 取得率は6・16% 5日未満が6割

 育休は育児・介護休業法に規定され、原則子どもが1歳になるまで男女どちらでも取得できる。2人とも取得すれば1歳2カ月まで延長できる。休業中は雇用保険から給与の67%(6カ月以降は50%)が給付され、社会保険料の免除と合わせて手取り収入の約8割が保障される。

 厚生労働省によると、2018年度の男性の育休取得率は6・16%(女性は82・2%)で、「20年までに13%」という政府目標には程遠い。その上、取得日数は5日未満が約6割を占め、「名ばかり育休」となっているのが実態だ。

 制度が整っていないわけではない。国連児童基金(ユニセフ)は育児支援策に関する報告書で、日本の男性の育休制度を給付金などの充実ぶりから41カ国中1位と評価する。内閣府の意識調査で育休を取得したい男性は6割以上。取りたくても取れない背景には、人手不足や雰囲気など職場環境が大きく関係している。

 日本の女性は男性の6倍の時間を家事育児に費やしており、諸外国と比べても偏りは著しい。男性が家事育児をする時間が多い家庭ほど、第2子以降が生まれる確率が高いことが明らかになっており、少子化を食い止めるために、男性の育児参加を促す必要がある。

 自民党の議員有志は今年6月、男性の育休「義務化」を目指す議員連盟を結成。本人の申請がなくても企業が育休を取らせる「プッシュ型」制度の創設などを安倍晋三首相に提言した。制度設計に向けた議論が始まる見通しだ。

 ●復帰後 仕事干された パタハラ訴訟原告 グレン・ウッドさん(49)

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券で特命部長として働いていたが、育休取得後に仕事を干されるなどのパタハラを受け、2017年に会社に損害賠償を求めて提訴し、係争中だ。

 15年に長男が生まれた際、会社に育休取得を拒まれた。なんとか約3カ月の育休が認められたものの、復帰後は会議に呼ばれず、顧客訪問も任されないなど、95%の仕事が取り上げられた。結局、うつ病になって休職し、提訴後の昨年4月に解雇された。

 今年6月、証人尋問の傍聴を呼び掛ける動画を公開したところ、50万回以上再生され、数え切れないほどの共感や励ましのコメントが寄せられた。7月に予定されていた裁判は多数の傍聴人で混乱が予想されるとして10月に延期になった。

 裁判で会社側は「育児のために配慮した」と主張しているが、本人が必要ないと言っている「配慮」はハラスメントだ。裁判を通じてパタハラの現実を多くの人に知ってもらい、日本の社会が変わるきっかけになればと思っている。 (東京都在住)

 【取らなかった】職場、休める雰囲気なく

 会社員男性(29)=福岡市東区 2年前、第1子が生まれた。職場は休める雰囲気になく、仕事の勘が鈍るのも嫌で育休は取らなかった。妻は赤ちゃんと24時間一緒で精神的に追い詰められた。妻の「なんで泣くの」と叫ぶ姿が頭から離れない。2人目のときは育休を取って、妻に「旅でもして気分転換しておいで」と言いたい。
 銀行員男性(30)=東京都 2人の子が生まれたとき、育休を取る男性行員はおらず、制度はあっても実際に取る選択肢はなかった。ただ主婦の妻の負担を少しでも軽くしようと、幼稚園の送り迎えや弁当作り、洗濯などは自主的にしている。長男が入院したとき休暇をすぐに取らせてもらえた。普段から早く帰るのは難しいかもしれないが、緊急時は職場の理解があると助かる。
 教員(再任用)男性(63)=熊本市北区 学校では男性教員が育休を取ったという話はほとんど聞かず、状況はこの30年間あまり変わっていない気がする。未来を担う子どもたちに、男性も育児の当事者だと手本を示したいが、教員は担任になると休みにくい。

 【取った】先輩の言葉に救われた

 会社員男性(40)=福岡県粕屋町 双子の娘たちが生後半年の頃、約1カ月の休みを取った。育休を利用すると収入は給付金だけで、いつもの8割ほどに減る。妻は主婦で経済的な不安が拭えず、有給休暇を消化する形にした。職場の理解があり復帰後もスムーズに働けた。先輩の「君が育児のために休暇を取ることで、後輩も取りやすくなる」との言葉に救われた。
 公務員女性(34)=福岡市東区 長男が生後3カ月の時から、夫は半年間育休を取得した。復帰後、「もう十分でしょう」と言わんばかりに忙しい部署に回され、深夜残業と休日出勤が続いた。夫もブランクができて焦りがあったのか、引き受けた。本当に大変なのは復帰後なのに、職場で理解されていなかった。せっかく夫はできる家事が増え、子どももなついたのに、台無しになった気がした。女性は復帰後に短時間勤務など配慮されやすいのに、男性は全く配慮されない場合が多い。育休で得た家事、育児のスキルを男性が生かせる職場環境が必要だ。

 【同僚は】会社は割り切る必要

 会社員男性(41)=福岡市南区 少ない人数の部署でも育休を取る男性が増え、業務をフォローするには限界がある。私は上司に「できることしかしません」と宣言している。全てを補おうとするから周囲が負担に思ったり、本人が取得しにくかったりするのでは。育休は期間限定だから、業績が一時的に落ちたとしても仕方ないと、会社は割り切る必要がある。
 会社員女性(38)=福岡県糸島市 勤め先は休みを取ることに理解があり、育休は男女とも珍しくない。男性上司が取ったときはみんなで仕事を分担した。それなりに大変だが仕事が回らないほどではなかった。夫は自営業なので育休自体ないけど、普段から家事や育児をする。でも普段していない人が育休を取っても本当に育児をするのかな、という思いはある。

 ●学校教育で意識付けを 福岡大教授(経営戦略論) 合力知工さん

 パパになる中心世代の壮年期(25~40歳)だけを切り取って、育休取得を促すという対症療法的なやり方では長続きしません。ごみの分別が社会に浸透した流れと同様に、「法整備と教育」という二つの柱で進めるべきだと考えます。

 「育児は女性がするもの」という考えを根本から変えるために、まずは小中学校で「男性育児」の学びを組み込むことです。生涯の収入と支出を考えると夫婦共働きが主流になる。その中で「女性だけが家事や育児を担うのはおかしい」と子どもの頃から学び、「男性の育児参加は当然だ」と意識付けをするのです。

 自民党の議員連盟が、男性育休を義務化する制度設計を進めています。国による義務化は大手企業の場合は後押しになります。一方で、人員の調整が厳しい中小企業にしわ寄せがいくようでは、社会的な普及はあり得ません。休業した社員の業務の外部委託費を国が支援するなど、中小企業への配慮をどこまで充実させるかがポイントでしょう。

 育休中は、多忙な中で家事や育児をいかに効率よく回すかという「段取り力」が身に付きます。社員が育休を取ることは、企業にとって経営戦略の面でも大きなメリットになるのです。

 ●1ヵ月以上取得 制度化 積水ハウス課長(ダイバーシティ推進部) 森本泰弘さん

 昨年9月、3歳未満の子を持つ男性社員全員に1カ月以上の育休取得を促す「イクメン休業制度」を始めました。収入に響かないよう最初の1カ月間は有給です。対象者約1500人のうち約千人が6月末までに取りました。

 制度は、出張先のスウェーデンで育児をする男性の多さに衝撃を受けた社長のトップダウンで実現。最大4回に分けて取得が可能です。単なる夫の骨休めとならないように、夫婦で休業中の過ごし方や役割分担を話し合い、取得計画書を会社に提出。仕事のフォローは上司や担当者と面談して具体的に決めておきます。

 当初、社員からは「仕事が回らなくなる」と反発もありましたが、全社的な研修を行い、とにかくやってみようとスタート。今は「複数担当制のおかげで支障なく対応できた」「部下に仕事を任せられた」などチーム力向上や人材育成につながったと評価する声がたくさん寄せられています。

 社内に「お互いさま」の雰囲気が根付いたことで、周りも休暇が取りやすくなりました。業務の効率化や無駄な作業の見直しにもつながり、「残業するな」の声掛けよりよっぽど働き方改革になったと実感しています。

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