【ラグビーW杯本番迫る】 徳増 浩司さん

西日本新聞 オピニオン面

 ◆世界との絆 強める好機

 ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会が、いよいよ20日に開幕する。桜のジャージーに身を包んで戦う日本代表31人も決まり、全国12の開催都市で街頭バナーやのぼり旗などが飾られた。試合会場となる福岡市、熊本市、大分市などで見かけた読者も多いことだろう。大会はスタジアムを越え、各所で街全体を盛り上げ、包んでいく。季節は秋だが、あたかも全国で次々に桜が開花していく「桜前線」を見るかのようだ。

 私自身も先日、東京・渋谷のセンター街を歩いていて、「夢ではないだろうか」とわが目を疑った。ラグビーW杯の街頭バナーひしめく下を、若者たちが楽しそうに歩いている。かつて招致に取り組んでいた時に見た夢が、現実に展開されていたのだ。

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 思いは、16年前の2003年にさかのぼる。日本ラグビー協会がW杯の日本招致を始めた年だ。前年には日韓共催のサッカーW杯があり、日本中を興奮に巻き込んだ。「自分たちもW杯をやりたい」。しかし、国際大会の招致は想像以上に困難だった。日本協会には前例も経験もない。世界のラグビー界は、旧英連邦を中心とした伝統国が作り上げた閉鎖的な組織。11年大会を目指し、いくらロビイングしたところで、彼らのネットワークに入っていない私たちの声は、届かなかった。

 19年大会を照準にした再挑戦。少しずつ伝統国の心をつかみはじめたのは、「この素晴らしいスポーツをもっと世界に広げるために、アジア、日本で開催しよう」というアピールだった。欧州のメディアも支援してくれ、「日本でW杯を開催することは大きな意義がある」と各地で発信し始めた。私たちは、各国協会幹部との個別の時間を大切にして訴え続けた。

 6年がかりの招致活動の末、09年に19年大会の日本開催が決定した。腰の重かった伝統国が、やっと日本開催の可能性に期待をかけてくれた瞬間だった。

 国際大会の招致実現は、シナリオ通りにはいかない。どんな素晴らしい招致ファイルを作り、ロビイングしても、その時に手を挙げた他の立候補国との関係で、最終的にどの国に票が流れるか分からないからだ。運命やタイミングに左右され、必ずしも絶対に取れる保障はない。だからこそ、今回招致できた日本大会を大切にしたい。

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 先日、日本協会の理事会で、招致について話をさせていただく機会があった。過去を語るためではない。私が強調したのは、大会の開催期間を活用して各国と積極的に「関係づくり」を強めることの大切さだ。招致時代には、ゼロから「関係づくり」に取り組んだ。今回は、首脳陣が期待を持って7週間にわたり日本に滞在する。48試合の前後は、外交、そして将来への関係強化に向けた絶好のチャンスだ。そこで、次にめざす夢や計画をしっかり伝えていくことが大切だ。つまり、この日本大会は、将来へつながる大会となる。

 これは草の根レベルでも変わらない。大会期間中の訪日客は約45万人とも試算されている。九州にも代表チームが次々とやってくる。キャンプ地の公式歓迎行事が、15日に長崎市のグラバー園でスコットランド、16日には宮崎県庁でイングランド、北九州市国際会議場でウェールズを迎えて行われる。

 日本中で新たな交流のエピソードが生まれることだろう。その日、その場所で一緒に過ごした人たちでしか分かち合えない喜びや体験がある。大会が終わった時に、そこでしか得られない時間を通して私たち一人一人が、次の夢の始まりに向かって進んでいける、そういう大会にしたい。

 【略歴】1952年、和歌山県生まれ。国際基督教大(ICU)卒、新聞記者を経て英カーディフ教育大留学。帰国後、茗渓学園高ラグビー部を率い全国優勝。95年から日本ラグビーフットボール協会勤務。アジアラグビー会長を経て名誉会長。

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