「大韓民国」と東京五輪 小出 浩樹

西日本新聞 オピニオン面

 東京五輪・パラリンピック開催まで1年を切った。スポーツの祭典と聞くと思い出すのが、韓国の応援コールである。

 日本が「ニッポン、チャチャチャ」なのに対し、韓国は 「テーハミングク、チャチャッチャチャ」が定番だ。

 「テーハミングク」は大韓民国という正式国名の現地読みである。略して「韓国」では決してない。愛国の熱が伝わるコールだ。ソウル支局に勤務した時代、耳の奥に刻まれた。

 文在寅(ムンジェイン)大統領の愛国心は、そのまま民族愛であり、北朝鮮との統一国家の希求であるようだ。〈南北分断を克服して初めて、われわれの「光復」は完成し、誰も揺さぶることのできない国となる〉(今年8月15日の演説)

 「光復」とは日本統治からの解放を指す。戦後74年がたっても、なお歴史観の軸に日本があることを、まず知っておく必要があるだろう。

 先月下旬には、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決め、ついに米国をも怒らせた。日米韓による北朝鮮包囲網を揺るがす「まさか」の展開だ。

 文在寅氏とは一体何者なのか。「人権派弁護士」だったことはよく知られる。なのに北朝鮮内の激しい人権弾圧には沈黙する。その実態は社会主義者だ、いや民族主義者だ、とさまざま分析される。

 両親が北朝鮮側の出身で、朝鮮戦争時に韓国側に避難してきたことは、本人の自伝を引用し、以前この欄で紹介した。母方の親族は逃げ遅れて取り残されていることも。

 最近特に思い起こすのは、申栄福(シンヨンボク)氏という韓国の思想家である。北朝鮮の金日成(キムイルソン)主席が韓国につくった地下組織「統一革命党」の党員の疑いがあるとして1968年に逮捕、88年の仮釈放後も転向しなかったとされ、その後は大学教授などを務めた人物である。

 日本ではあまり知られていないが、その人物を文氏は「尊敬する」と公言した。昨年2月、平昌(ピョンチャン)五輪公式行事の席上だ。五輪には金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹、金与正(キムヨジョン)氏ら北朝鮮訪問団が招かれていた。「尊敬発言」が単なるリップサービスでなかったことは、昨今の言動が証明する。

 南北朝鮮の歴史は五輪と密接に絡み合う。大韓航空機爆破事件は、ソウル五輪開催(88年)を阻むために、北朝鮮が仕組んだとされる。

 韓国では今、東京五輪ボイコットの声も上がる。文氏にとって念願の応援コールは統一後の「大朝鮮国」ではないか。その実現に必要だからと、参加拒否などとならぬよう願いたい。 (論説委員)

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