「この思いどこにぶつければ…」継いだ農地、真っ黒に 九州北部大雨

西日本新聞 社会面

 記録的大雨に見舞われた佐賀県大町町には、鉄工所から流れ込んだ油によって黒ずんだままの田畑が残る。農家の鵜池(うのいけ)幸治さん(34)は、代々受け継いできた農地を前に立ち尽くす。「自力での復旧は難しい。この思いをどこにぶつければいいのか」。大雨から4日で1週間。いつ誰が油被害を補償してくれるのか分からず、先を見通せずにいる。

 あちこちに黒いキュウリが転がり、枝や葉が茶色く染まる。浸水したビニールハウスに、鼻をつく油の臭い。鵜池さんは「収穫が始まったところだったのに。頭が真っ白です」と話す。

 油を流出させた佐賀鉄工所から、周囲の冠水で孤立状態となっていた順天堂病院まで約1キロ。ハウスは、その真ん中ほどの場所にある。鵜池さんは大学卒業後にハウスを建て、キュウリや米、大豆を作る両親の元で農業を10年学んできた。

 8月中旬から、緑に実ったキュウリを手で一つ一つ収穫してきた。雨脚の強さを感じながらハウス隣の実家で眠りにつき、先月28日朝に起きると、たちまち1階が水に漬かった。両親とともに2階に避難し、ボートで救助された。

 水位が下がった31日、実家に戻った。油で汚れた家具や畳を運び出し、捨てるものと残すものを分け、雑巾で床を拭いた。1週間で実家の片付けは落ち着いたが、ハウスだけでなく、浸水した両親の田んぼ約3ヘクタールもほぼ手つかずだ。油で茶色く染まった水稲はもう収穫できない。

 水やりなどを自動制御できるハウスの再建費は約3千万円。油が沈んだ土も取り換えなければ農業はできない。被災時の収入減を補償する農業保険に加入していない。油被害に国がどう支援してくれるかも分からない。謝罪に来た鉄工所社員は今後の対応を「検討します」と言ったが、その後は音沙汰がないという。

 昨年10月には第1子の娘が生まれた。両親の農地を継ぐ話し合いも始め、実家で一緒に暮らすことも考えていた。「使えない農地を譲るのは申し訳ない」という母の智恵子さん(64)の言葉に心が痛む。

 「できれば、この町で農業を再開したい。国か、鉄工所か。どこかの補償がないと生きていけない」。腐ってしぼんだキュウリを何度も手にした。

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