人間機雷を命じる狂気 水江 浩文

西日本新聞 オピニオン面

 その異様な兵器は、映画「ゴジラ」(1954年)で巨大怪獣の息の根を止めるため、酸素破壊剤「オキシジェン・デストロイヤー」とともに海中へ潜っていく隻眼の科学者(芹沢博士)の悲壮な潜水服姿を連想させた。

 人間機雷「伏龍」である。十数年前、予科練で知られる霞ケ浦海軍航空隊のあった茨城県内の展示館で偶然、古色蒼然(そうぜん)とした特攻潜水服を見た。人間魚雷「回天」や特攻艇「震洋」は承知していたが、伏龍は知らなかった。

 炸(さく)薬を先端に装着した棒を手に、海中で米軍艦船を待ち受け、船底に突き付けて爆破するというのだ。高速で自在に動く艦艇を海底で瞬時に捉え、棒で突き当てるなど神業にも等しい。しかも艦砲射撃を受けたら全滅である。無謀というより「狂気の沙汰」というべきだろう。

 太平洋戦争の末期、軍艦も航空機も払底した海軍は、大空に飛び立つ夢を抱いて予科練へ入った若者に、海底で機雷になれ、と命じた。訓練段階で終戦を迎え、実戦には投入されなかったと聞く。しかし、訓練中に事故で命を落とした若者が多数いたという。

 伏龍のことを想起したのは「自律型致死兵器システム(LAWS)」に関する記事を読んだからだ。

 人工知能(AI)で自動的に標的を識別し殺傷するロボットである。この規制を巡る国連公式専門家会議が先月、スイスで開かれ、国際人道法の順守などの指針を盛り込んだ議長報告をまとめた。ただ、法的拘束力を持つ条約など規制の明記は見送られた。

 開発を進める米国やロシア、イスラエルなどは規制に後ろ向きで、中南米諸国などは規制強化を求めている。日本政府は殺人ロボット兵器開発の意思はない、との立場だ。憲法9条を持ち出すまでもなく、当然だろう。私は、もしこんなロボット兵器が開発されていたら、特攻兵器で失われた命は救えただろうか-などと夢想してしまった。

 伏龍で思い出すのは、作家の城山三郎さん(1927~2007)である。戦争末期に海軍特別幹部練習生に志願した城山さんは、こう書き残している。「あのまま戦争が続いていたら、私は『伏龍特別攻撃隊』として、潜水服を着て関東の海岸に潜って、爆弾のついた棒で米軍の上陸用舟艇を突く作戦に駆り出されていただろう」

 戦争の愚かさと軍隊の狂気、人命無視(軽視にあらず)の兵器とおぞましい訓練を体験した気骨の作家は「日本が戦争で得たものは憲法だけだ」と繰り返し、憲法を守れと訴えた。(論説副委員長)

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