ネットの“ぬれぎぬリンチ”深刻化 「いつか犠牲者出る」被害者の恐怖 加害者にならないために

西日本新聞

あおり運転事故の容疑者の父と誤認された当時を振り返り、「なぜまた同じようなデマが拡散されたのか」とあきれる石橋建設工業の石橋秀文社長※画像の一部を加工しています 拡大

あおり運転事故の容疑者の父と誤認された当時を振り返り、「なぜまた同じようなデマが拡散されたのか」とあきれる石橋建設工業の石橋秀文社長※画像の一部を加工しています

「まとめ速報」は、インターネットから集めた断片的な情報を過激な見出しでまとめていることが多い 投稿や拡散をする前に、一度立ち止まって考えてほしい(イメージ) インターネット上にデマを書き込んだ男性から石橋秀文社長に送られてきた手紙(写真の一部を加工しています) ネット人権侵犯の救済件数の推移

 朝起きてスマートフォンをのぞいたら、自分が見ず知らずの事件の犯人にされていた-。ネット上で拡散するデマによる被害が深刻化している。8月に茨城県守谷市の常磐自動車道で起きたあおり運転殴打事件では、無関係の女性が実名や顔写真をさらされて犯人扱いされた。誰でも世界中に情報を発信できる現代。軽い気持ちが重なって人を傷つける“ぬれぎぬリンチ”に加担しないために、私たちができることは何だろうか。
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 「早く自首しろ!」「逃げられると思うな」「見つけたらすぐに110番か羽交い締め」

 8月17日の朝、関東に住む会社経営の女性Aさんの会員制交流サイト(SNS)には、Aさんを常磐道の事件の犯人扱いするメッセージやコメントが膨大に届いていた。事実無根だったが、Aさんの代理人弁護士によると、Aさんの会社には、その日だけで約280件の嫌がらせ電話があったという。

 前日、常磐道であおり運転をして停車させた車の男性を殴ってけがをさせたとして、会社経営の男が全国に指名手配された。テレビで繰り返し流される暴行の様子の映像に、顔をモザイク処理された女が映っていた。

 ネットではこの女が話題になった。そして17日未明、「女を特定した」としてツイッター上などにAさんの実名や顔写真が投稿された。書き込みはSNSなどで一気に広がり、中傷が相次いだ。

 翌18日、Aさんは経営する会社のホームページに「事実無根のもので(略)強く困惑しています」とのコメントを掲載。一部の投稿は削除されたが、犯人隠避容疑などで女が逮捕された今も、ネット上にはAさんの実名や顔写真が残っている。

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 今回の事件と同じような「ぬれぎぬリンチ」は、過去にもあった。

 2017年6月、神奈川県の東名高速道路で後続車の男に因縁を付けられたワゴン車の夫婦が大型トラックに追突され死亡した事故に絡み、全く関係のない北九州市の建設会社が、容疑者の「勤務先」としてネット上に拡散。社長が「容疑者の父親」と誤認され、会社には嫌がらせの電話が殺到した。

 被害に遭った石橋建設工業=同市八幡西区=社長の石橋秀文さん(47)は「身に覚えがない上、ネット上では相手の顔も名前も分からない。『会社に行く』と脅され、子どもや妻にまで危害が及ぶのではと不安な気持ちでいっぱいだった」と振り返る。

 常磐道の事故でのデマ拡散について、石橋さんは「自分の経験とよく似ている」と指摘。「同じようなことがあったばかりなのに、インターネット利用者の進歩のなさに、怒りとあきれを感じる」とやりきれない胸の内を明かす。

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 常磐道の事件では、Aさんが特定された根拠として、▽AさんがSNSに投稿していた洋服や帽子などが映像の女のものと似ている▽男とみられるSNSのアカウントがAさんをフォローしている-点などが挙げられていた。

 石橋さんの場合は、▽逮捕された男と名字が同じ▽男の住所が会社の所在地の隣の市だった▽男の職業が建設作業員で職種が同じ-という点がデマの根拠とされていた。

 「わずかなパーツを集めて、勝手に断定調になる。『似ている』『近い』というだけで決め付け、事実無根の話がどんどん拡散していく」と石橋さんは憤る。

 また、デマを否定した本人が「証拠を出せ」などと迫られる点も、自身のデマと酷似していると話す。石橋さんの場合も「うそつき」「ニセモノ」などと繰り返し言われたりしたという。石橋さんは「薄い根拠でたやすく信じて、それを否定する意見には聞く耳を持たないのも一つの特徴だ」と指摘する。

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