アンプティサッカーW杯、日本に新たな希望(下)アウトサイドで魅せる努力型15歳

西日本新聞

  日本一をかけた決勝戦。大人に交じって出場した中3が、まさかのアウトサイドでフリーキックをたたきこんだ。昨年秋に映像で見て以来、ずっと気になっていた15歳が、今年7月、日本代表に入った。

 「努力の子」。代表監督は彼を一言で表現する。

 片腕や片脚の切断障害者がプレーする「アンプティサッカー」。4年ぶりに開かれる10月開幕のW杯を戦う日本代表15人が、国内約100選手から選ばれた。20代、30代がほとんどを占める中で、大人に交じって14歳と15歳が日の丸を背負う。

 前編では大阪市の14歳を紹介した。今回は、おそらく長期にわたって彼のライバルとなる、茨城県常総市の15歳に焦点を当てる(三重野諭)。

 元Jリーガー矢島卓郎氏も認める過酷な競技

 アンプティは片脚の6人がフィールドプレーヤー、片腕の1人がGKを務める7人制。片脚のプレーヤーはクラッチと呼ばれる医療用のつえで走り、キックやトラップをこなす。その過酷さは元Jリーガーも認める。J1清水や川崎などで活躍した矢島卓郎さん(34)も、つえを使った片脚でのプレーを体験し「脚がすぐパンパンになった。選手はすごい体力。障害者だけど、アスリートだ」と舌を巻いた。

 5月、大阪市で開かれたアンプティサッカーの国内大会「第5回レオピン杯」。2日間で4試合のハードスケジュールを戦い、大会を連覇した「FCアウボラーダ」。その中でも最も運動量が目立ったのは秋葉海人選手(15)だった。

 ポジションは前線や中盤を状況によって行き来する。スピードを生かし、スペースに飛び出す動きで相手ゴール前に迫る。DFを2人、3人と抜いて突破する場面も。「若いけど、『縦ポン』な感じで結果を出している。ドリブルもフェイントもある」。チームメートで日本代表のエース、エンヒッキ・松茂良・ジアス(29)も信頼を寄せる。アンプティを始めて1年半足らずだが、既に相手にマークされる存在だ。

 セットプレーに合わせてボレーシュートを狙う器用さもあり、鋭いキックも見せる。それ以上に心を奪われたのは献身的な動き。前から相手DFにプレッシャーをかける。味方が上がれば代わりに下がってスペースを埋める。敵陣深くにいたかと思えば、自陣ゴール前まで戻ってクリアする場面も。労をいとわず、仲間がきついときにこそ走る。そんな印象だ。

【写真:秋葉選手はドリブル突破を見せるが、相手キーパーにクリアされる】

利き足の指がなくてもエラシコ

〝努力の子〟を作り上げたのは、サッカーへの情熱だ。秋葉選手は記憶も残らない5歳のころ、歩道を渡ろうとした瞬間にトラックに右足の先を引かれた。「運動神経が良くて後ろにそれた分、足先だけで済んだと親に聞きました」。とはいえ、右足の指5本を失った。「物心ついたら、義足で普通に生活をしていました」。

 アンプティより前に、通常のサッカーと出会った。友人に誘われ、小4で地元の常総市のクラブチームに。野球やバスケットボールなど、他のスポーツも体験したが、サッカーは格段にしっくりきた。

 利き足は指がなく、義足を使う右。ボールタッチは困難を極めた。「ハンディは感じたけど、負けず嫌いなんで。毎日学校から帰ってきたら家の庭で練習した」

 クラブではFW。「自分で抜いて点を決めるとめっちゃうれしかった」。ユーチューブを見て、エラシコ(足のアウトサイドでボールを外に押し出し、そのままインサイドで切り返すドリブルの技)を研究した。「指がない分、細かい動きが難しかった」。練習を重ねて「下をえぐって、上からはたく感じ」をつかんだ。試合でも披露した。

 中学では部活に入ったが、壁が立ちはだかった。両脚の長さをそろえるため、右脚を伸ばす手術を中1の終わりごろに受けた影響で、半年間プレーできなかった。ブランクが大きかっただけでなく、手術に伴い義足を変えたことで、キックの感覚も変わりシュートを打ちづらくなった。脚の力が強くなり、義足が壊れることも頭を悩ませた。

 いったんはサッカーを辞めざるを得なかった。〝再会〟は約1年後。義足を作る義肢装具士にアンプティを紹介された。「1度諦めたけど、やっぱり好きだったから」と体験イベントに参加した。
 
 「クラッチは脚だけじゃなく、体の全身を使う。手を使って踏み込む感覚は難しかった。でも、すごく楽しかった」。FCアウボラーダの選手やコーチが体験会で講師をしていた縁で、昨年春にクラブに入り、アンプティの扉をたたいた。

 同年代とやる少年サッカーと違い、周りは大人だらけ。体格差で当たり負けもしていたが、「ほとんど使ってなかった」という左脚を鍛え、昨年11月の日本選手権ではレギュラーをつかんだ。アンプティでは使い手が少ないアウトサイドのキックは独自の武器。左サイドでドリブル、中に切り込んで左アウトでシュートが得意の形だ。

【写真:スピードを生かして攻め込む秋葉選手(中)】

 ドリブラーだけに、相手DFから付いて来られるプレッシャーの怖さも分かっている。だからこそ、自らもボールを持った相手を追う。「体力には自信があるので、守備は意識しています」

 秋葉選手と同じように、スピードを生かした攻撃面でも、運動量を生かした守備面でもチームに貢献する大阪市の近藤碧選手(14)。2人そろってアンプティの日本代表に選ばれた。7月、宮崎市であった代表合宿では、臨時コーチを務める矢島卓郎さんから指導を受ける場面もあった。矢島さんに2人の良さを聞いた。

 いかに代表で自分を出せるか

 「秋葉選手はスピードがあり、裏を飛び出して狙える。駆け引きやタイミングなど、まだまだ伸びる」
 「近藤選手は相手をはがして、かわしきってフィニッシュまでいける。ドリブルには伸びしろがある」
 「アンプティはサッカーと同じく、『戦うスポーツ』。片脚でつえを使う疲労も大きくて、相手やボールを追い続けることはできない。休む時間も必要だが、若い2人には守備も期待している。代表や世界でもまれて成長してほしい。そのためにもチームで自分を出せるようになってほしい」

 国内クラブでのチームメートが代表にいるとはいえ、知らない大人に囲まれた14歳と15歳には、自分を出すというのは難しいだろう。まして、W杯ではメキシコに渡航、滞在しながら、周囲とコミュニケーションをとる必要がある。できなければ、試合出場は困難だ。「部屋で大人しくならなければ良いが…」と心配する関係者もいた。

 取材に対して、2人は決して口数が多いわけではない。感情を常に表に出すタイプでもない。自分から積極的に話しかけるというより、年相応の少年らしくシャイな印象の2人だが、受け答えは丁寧で真面目な印象を受ける。

 近藤選手は「シュート力が課題。もっと強く打てないと、遠目からは狙えない。攻守の切り替えも早くしないと。まずはW杯で試合に出たい」。秋葉選手は「細かい脚さばきのドリブルができるようになるのが目標。代表では違うクラブの人とのコミュニケーションが大事なので、声に出して自分がボールを欲しい場所を伝えていく」。ともに自分の課題を認識できている。

【写真:日本代表合宿で近藤選手(右)にボードを使って動きを助言する矢島さん】

他競技に流出させたくない逸材

 それだけに、選手や監督、コーチなど周囲がどれだけピッチ内外でも精神面をフォローできるか、少年たちの良さを発揮させられるかが鍵になるはず。ある関係者は2人の代表入りの理由について「国内大会での実績や実力もあり、戦力として十分条件を満たしている。さらに言えば、将来有望な2人を他のパラリンピック競技に取られたくないという事情もある」と語った。
 
 アンプティサッカーはパラリンピック競技ではないため、パラ競技の陸上や水泳、車いすテニス、車いすバスケットボール、ブラインドサッカーなどと比べて国内の知名度で劣る。他の競技と掛け持ちするアンプティの選手もおり、他の競技への転向を心配し、世界の魅力を体感させようとする関係者の気持ちは痛いほど分かる。

 それだけに、金の卵とも言える2人を貴重な国際大会を通じて育ててほしい。代わりに代表から漏れて悔し涙を流した選手たちのためにも。

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