「足を無くしてよかった」選手の言葉に込められたアンプティサッカーの魅力 個人技、過酷さ、世界との戦い

西日本新聞

 片脚や片腕を切断、もしくは先天的に失った人たちがプレーする「アンプティサッカー」。英語で切断者を意味する「amputee」の名が付いた競技を、6年前から取材している。国内大会で日本一を勝ち取ったクラブの、ある選手の言葉が忘れられない。

「勝ち負けより、見に来てくれたお客さんに喜んでもらえたことが一番うれしい。こんな世界が待ってるなんて夢にも思わなかった。足を無くしてよかった」

 なぜ選手をこれほどまでに、とりこにするのか。私自身が取材にはまった理由も含めて、競技の魅力をお伝えしたい。(三重野諭)

 アンプティは片脚のフィールドプレーヤーが6人と、片腕の選手が務めるGKの7人制。片脚の選手は「クラッチ」と呼ばれる一般的な医療用のつえを使い、専用の器具は必要としない。オフサイドはなく、選手交代は自由だ。

 1980年代にアメリカ人の切断障害者が発案し、負傷兵のリハビリの一環として世界に広まった。日本に〝輸入〟されたのは2008年。アンプティサッカーの元ブラジル代表、エンヒッキ・松茂良・ジアス選手(27)=東京都=の来日がきっかけ。彼のプレーが話題となって支援者が集まり、2010年に国内初のクラブが誕生した。

魅力その① キックの速さや技術、個人技

 映像をご覧になったことが無い方は、記事中の動画をぜひ見てほしい。つえを支えにして、脚を持ち上げ、振り子のようにしならせて放たれるキック。トップレベルのシュートは「健常者並み」とGKは口をそろえる。フィールドの広さが通常のサッカーの4割ほどのため、「シュートを打たれる距離が近く、フットサル並みに恐怖心がある」(練習に加わった健常者)との声も。

 ドリブルやダッシュは、つえを使っているとは思えないほど速い選手もいる。私は練習に混ぜてもらった際、ドリブルで抜かれたこともある(サッカー未経験者なので、参考にはならないかもしれないが)。運動音痴、運動不足、30代半ばの私は、つえでドリブルやトラップするだけでも悪戦苦闘。比較するのも失礼だが、日本代表の10番を背負うエンヒッキ選手は、つえでドリブルしながら、「エラシコ」というフェイントを繰り出すレベルだ。

 ルール上、つえや残った足でボールを扱うとハンドの反則となる。同じ足でトラップとキックをしなければならず、その動作の時間を短縮するため、強豪クラブはダイレクトプレーも多用する。リターンパス、ポストプレーはもちろん、つえで飛び上がってヘディング、ボレーシュートも狙う。フリーキック、コーナーキックに合わせる、あるいは跳ね返そうとする空中戦も見せ場だ。

 残った足の長さが、選手としての特徴に表れやすい。脚を根元まで切断している選手ほど体重が軽い分、スピード型が多い。逆に脚が残っている人は体重が重い分、当たりに強く、ポストプレーなどに力を発揮する選手が多い印象だ。飛び上がって体を倒しながらシュートを狙い、観客を沸かせる星川誠選手(26)=福岡県=は、「自分は使わない方の脚が長いので、着地でクッションにできるんです」と解説している。

 「(キックをする際の)軸足がなくて難しいし、片脚での疲労感が大きい」。日本障がい者サッカー連盟会長を務める北沢豪氏が体験した感想だ。試合では星川選手のジャンピングボレーを目の当たりにして「そのタイミングでやるのか。すごいよね、すごい」と興奮を隠さなかった。

【写真:コーナーキックからボレーシュートを放つ星川選手】

魅力その② プレーの激しさ、過酷さ

 11人制のサッカー同様、接触プレーは日常茶飯事。つえや足で引っかけるといった悪質な当たりでなければ、相手を倒しても反則をとられない場面も。当然けがの危険性は避けて通れない。決定的なピンチ、カード覚悟で相手を倒す「プロフェッショナルファウル」もある。国内大会の決勝戦でレッドカードが出て、選手が退場したこともある。日本サッカー協会の田嶋幸三会長は、観戦した際「球際(の激しさ)がすごい」と驚いていた。

 そもそも、つえで走るだけでもしんどい。通常のサッカーの4割ほどの広さを、片脚の6人でカバーしなければならない。両脚のあるGKは、ペナルティエリア内でしかプレーできないからだ。20分や25分ハーフの試合時間、何度もダッシュを繰り返す。脚をつる選手、激しい当たりで肩や腰、脚を痛める選手。担架に乗って運ばれる光景も珍しくない。その中で、味方からのパスを信じてスペースに走り込む、あるいは、守備のために懸命に体を投げ出す。決して大げさでなく、「超人」だと思う瞬間がある。

 冒頭の「足を無くして良かった」は、新井誠治選手(46)=埼玉県=の言葉だ。元柔道の実業団選手。悪性リンパ腫を発症して左脚を切断するまでは、柔道の指導者だった。

 彼は強豪のアンプティサッカークラブ「FCアウボラーダ」の一員。アンプティの日本代表に3度選ばれた選手だが、サッカー経験はなく年齢もあり、決してトップ選手とは言えない。それゆえに、20歳近く年下のチームメートから「もっと動いて」と鼓舞され、懸命にフィールドを走り続ける姿には胸を打たれる。冒頭の一言は、決勝戦で声援を浴びながら、限界まで走りきったのちに、彼が絞り出した言葉だった。

魅力その③ 発展途上

【写真:16年の日本選手権では、初めて女性選手同士の対決が実現した】

 日本で本格的に競技が始まってまだ7年弱。2012年から、年2回の国内大会に足を運んでいるが、選手個々の技術や戦術の発展がめまぐるしい。当初は個人差が目立ち、飛び抜けた選手が〝無双状態〟だった。海外のプレーヤーの映像などもほとんどなく、キックする際のつえの置き方、ボールの受け方、守備のポジショニングなども手探り。試合では大量得点、大量失点も多く、見た目は派手だが〝雑〟に感じる試合も多かった。

 大会を重ねるごとに、各クラブともに勝つための戦術を徹底するようになった。上手な選手、キープレーヤーを後方に置いて、守備を固める。ボールをただ追うだけでなく、スペースを埋める動き、体力消費を抑えたり、陣形のバランスをとったりする姿も。うまい選手がマークに苦しみ、倒される場面も増え、試合がロースコア化、1点の重みが増した。

 15年ごろからは、守備を固めつつも、時にはリスクを負って攻めに転じ、その守備をいかにして打ち破るかがテーマに。強豪クラブは守備選手の攻撃参加やディフェンスラインの押し上げ、試合中のポジションチェンジ、サイドからのクロス攻撃、ミドルシュートなど、複数の攻撃パターンを編み出した。個人技が試合を決める、ということは少なくなった。人数をかけた攻めは当然、カウンターを浴びることも。試合での得点シーンは多くなったが、以前とは違い、総合力で1点を争う好ゲームが増えている印象だ。

 選手人口もじわじわと増えている。2011年に開かれた最初の国内大会は、3クラブの約30選手で頂点を争った。その後、開催ごとに新人選手が加わったり、前述の過酷さのため、けがなどで泣く泣く引退する選手もいたり。プレーヤーが入れ替わりながら、現在では北海道から九州まで全国で9クラブ、90人ほどがプレーするようになった。

 「過酷」という言葉を繰り返してきたが、実は子どもや女性選手もデビューしており、公式戦で小学生同士、女性同士のマッチアップも実現している。体力に優れた中学生がレギュラーをつかんだ例はざらにある。中でもアウボラーダの石井賢選手=神奈川県=は小学4年生ながら、実力的に試合に出るレベルにあり、小学生として公式戦で初得点も記録した。強豪チームでも選手層が決して厚いわけではない、まだまだ普及途上という裏返しでもあるが、得点シーンでは、チームメート全員がまるで父親のように喜んでいたのを覚えている。大会ごとに、新人選手をチェックするのも楽しみの一つだ。

【写真:16年の日本選手権でシュートを放つ石井選手(青)】

魅力その④ アマチュアスポーツ

 国内大会や、後述する日本代表の運営などは、NPO法人でもある日本アンプティサッカー協会が統括している。パラリンピック競技ではないため、協会には公的な助成金はゼロ。関係者のたゆまぬ努力もあり、協会や各クラブに対して、民間のスポンサーも着実に増えているが、基本的に選手は自己資金で活動している。協会スタッフも全員がボランティアで、遠征などでは選手の交通費補助を優先、自腹で移動することもあるという。

 「アマチュアスポーツなので、全額を人様のお金で活動するということは、最初から考えていない」(協会関係者)。とはいえ、自らのお金も時間もつぎ込んで、競技のPRや大会開催に尽くす選手や裏方の姿を見ていると、取材というより応援したいという気持ちが年々強くなってきた。記者失格、と言われるかもしれないが。

魅力その⑤ 九州のクラブが強い

 次は競技の魅力というより、私が取材にのめり込んだ理由になる。西日本新聞は九州が発行エリアで、主に九州の人を取り上げる媒体というのが原点にある。九州在住・出身者でつくるアンプティサッカークラブ「FC九州バイラオール」の発足が、取材のきっかけだった。

 九州はサッカー経験者が9人中6人と多く、5人はアンプティの日本代表としてW杯に出場した。足下の技術を生かしたパスワークは圧巻。発足当初は人数がそろわず、6人で試合に臨みながらもボールを支配し続ける驚異的な大勝に、あぜんとする観客を何度も目にした。過去9度の国内大会のうち、優勝が4回、残り5回は準優勝だ。

 九州には鹿児島実業や東海大五(現東海大福岡)といった、Jリーガーを輩出している名門高のサッカー部員だった選手もいる。ポジショニングやプレーの選択肢などを他の選手に的確に指示できる「サッカー偏差値」の高さも大きな武器だ。アンプティサッカー協会の最高顧問、セルジオ越後氏は九州の主力を「サッカーをよく知っている。脚があったとしても、良い選手になったのでは」と高く評価している。

魅力その⑥ 世界との戦い

 日本代表として世界各国と戦える。選手たちにとって大きな魅力だろう。2年に1度開催されているW杯。そのたびに選手たちは2週間ほど仕事を休み、渡航費用などとして10万~30万円を自腹で払ってでも、日の丸をつけてプレーしてきた。

 日本が参加した最初のW杯、2010年のアルゼンチン大会当時は、国内の選手人口は10人。全員が日本代表で、エンヒッキ選手を除く9人はW杯が人生初のアンプティの試合だった。ホームのアルゼンチン相手の初戦に0-8で敗れるなど、5戦全敗。ただ、「数千人はいた」という大観衆の前でのプレーは、日本代表を魅了した。メンバーは惨敗に心が折れるどころか、「また出たい」「勝ちたい」という思いを強くし、地元などで次々とクラブを立ち上げた。

 直近の14年メキシコ大会では、代表合宿などでメンバーを厳選。3度目のW杯で初勝利を飾ると、強豪のトルコを撃破。準優勝のアンゴラに惜敗するなど、世界との差を確実に縮めている。

 ただ、その国際大会に一時、暗雲が立ちこめた。昨年実施予定だったW杯は開催が消滅した。当初はポーランド、アイルランド、リベリア、ハイチの4カ国が開催国に立候補。ただ、開催国が各国選手団の滞在費を負担するなどの規定をクリアできず、期限内に代替国も決まらなかったという。日本だけでなく、世界各国のアンプティ関係者にとっても、資金不足は壁になっている。

 選手らには閉塞感が漂った。2度W杯に出場した野間口圭介選手(43)=福岡県=は「代表入りは自分たちの大きなモチベーションになる。それがなくなるのは大きい。初出場を狙う選手たちからの追い上げ、競争も生まれない」と分析。同じ障害者サッカーというくくりでブラインドサッカーに触れ、「あちらは日本で世界選手権をやって盛り上がり、ファンも拡大した。アンプティにも起爆剤となる機会があれば」と話した。

 その中で1月8日、静岡市で開かれた、サッカー日本・韓国OB戦前座でのアンプティサッカーの一戦。サッカーの元日本代表や観客をうならせ、国際試合とは違った形で普及の一手になった。世界の関係者の尽力もあり、今のところ18年のW杯は海外で開催されることが決定している。これとは別に、今年、日本代表の国際遠征の計画もある。

 ぜひこの記事をご覧になった方にも、試合観戦や映像、記事などで魅力を味わってもらいたい。選手への声援が1人でも増えることを願っている。

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