「どげんしたら地域を守れたのか」九州北部大雨のあの日…排水ポンプ停止、男性の苦悩

西日本新聞 社会面

水門を開け閉めするハンドルに手を置く排水機場操作員の牛島忠幸さん=4日午後0時半ごろ、佐賀県大町町 拡大

水門を開け閉めするハンドルに手を置く排水機場操作員の牛島忠幸さん=4日午後0時半ごろ、佐賀県大町町

佐賀県大町町の排水機場付近の地図

 記録的な大雨に見舞われた佐賀県大町町に、水害から地域を守ろうともがいた町民がいた。町から排水機場の操作を委託されている牛島忠幸さん(62)は8月28日、農業用水路から六角川に排水するポンプを稼働させていたが、流出した油が川から有明海に広がることを恐れた町の指示を受けて停止。水は行き場を失い、地域をのみ込み、牛島さんの家屋も油にまみれた。「どげんしたら地域を守れたのか」。自問を続けている。

 牛島さんは周囲の冠水で孤立状態になった順天堂病院近くの下潟排水機場の向かいに暮らす。油混じりの水に漬かった自宅と会社事務所の片付けに追われる。「油でめちゃくちゃ。でも、大変そうな地域の人の姿を見るのがもっとつらい」

 祖父の代から水門管理を担い、住民から「係さん」と呼ばれる。2000年に排水機場が開所し、父から「係さん」を継いだ。大雨が降れば、何時でも雨具を着て排水機場に向かう。あの日も、そうだった。

 しとしと雨が落ちる27日昼からポンプを動かした。夜通し排水機場の水位計に気を配った。強まる雨脚。28日午前6時、水位が4メートル近くに。2時間で2メートルも上がった。「排水が追い付かん。これまでと違う」

 午前11時23分、携帯電話が鳴り、町の担当者が言った。「鉄工所の油が流れているのでストップしてくれ」。ポンプを止めれば住宅が水に漬かる。頭に浮かんだものの「町には逆らえん」。指示に従った。

 ただ、水位に応じて用水路から川に自然排水する水門は開けたままにした。既に水位は門の下部に達しており、水面に浮いた油は滞留すると考えた。わずかな望みを胸に家に戻った。ぐんぐん水位が上昇。黒い油水にのまれる一帯を、2階からただ見つめるしかなかった。ポンプは停止後に冠水し、故障。水門も国土交通省九州地方整備局職員の手で閉められていた。

 町は「油の拡散を防ぐには、この選択しかなかった」、九地整も「ポンプ車などで水位を下げる努力を続けた」と説明。ポンプ停止と閉門がどこまで増水に影響したか分からない。ただ、家が漬かった住民たちは「油拡散を防ぐために私たちが犠牲になったのか」と憤る。

 地域の暮らしを守るのか、油による広域被害を防ぐのか-。「係さん」として今も川と向き合う牛島さんの思いは晴れない。「国と町の判断が間違っていたとは思わん。でも、水門だけでも開けていれば、助かった家や畑もあったんじゃなかか」

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