大切なのはこの子の命 田代 芳樹

西日本新聞 オピニオン面

 新学期が始まった。「また学校か」と、もやもやしている児童生徒もいるかもしれない。休み明けの後は、いろいろな意味で子どもがプレッシャーを受けやすい時期だ。

 気をもむ親子に、ぜひ知ってもらいたい話がある。

 もう26年前になる。大学の教官がまとめた不登校の研究成果を記事にした。登校を嫌がる子どもは、過保護や放任主義の家庭に多い。こんな内容だった。

 すると、掲載日に読者から厳しい指摘の電話が来た。

 「不登校の児童や生徒は家庭に問題があることが多いと記事に書かれていますが、子どもや親の声を直接聞いたことがありますか」。自らも子どもが不登校で悩んだ時期があった女性は涙声になった。

 不登校が「家庭に問題がある」と矮小(わいしょう)化されることに、居ても立ってもいられず電話をかけてきたのだという。

 翌日、その母親に直接会って話を聞くことにした。

 女性の一家は、転勤で福岡に引っ越してきた。転校した娘は学校になじめず、不登校を繰り返した。自室に閉じこもる娘に母親は「学校に行きなさい」と、毎日のように責め立てた。心を閉ざした娘は自分を理解しない親に絶望したのか、追い詰められ、ついには死に向かおうとした。娘の行動に母親は動揺して事の重大さを知った。「その時、初めて『大切なのはこの子の命だ』と分かりました。それからです。子どもと話せるようになったのは」。そう語った母親の姿が今も心に残る。

 そして母親は一冊の本を差し出した。「子どもたちが語る登校拒否-402人のメッセージ」と題した千ページを超える分厚い書物だった。

 何日かかけて目を通した。

 「ぬの切れに書いていた、むざんな 文字 『来るな』と言うなら 行かない… だけど、わたしは、『ばか』じゃない こんな事、している人達よりは」

 「学校の先生は『勇気を出して学校に来るんだ。いじめられても一生懸命来ている生徒もいるんだぞ』と言う。学校とは、勇気を出さなきゃ行けないようなとこなのか」

 素直な思いを言葉に託した表現に、胸を打たれた。

 今で言う「不登校」は、そのころ「登校拒否」と呼ばれ、子どもや家庭に問題があると考える傾向が強かった。

 当時と比べて社会の理解も進みつつある。それでも子どもと学校を巡る問題の解決策は容易に見いだせない。その糸口は、子どもの声に耳を傾けることにあると思う。前述の書物は図書館などが所蔵している。一度手にしてほしい。

 (デジタル編集チーム)

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