暴力団事務所から“変身” 安全守り続ける交番の10年 市民や行政が連係「成功例」の今

西日本新聞

 暴力団事務所が安心安全のシンボルとして変身-。組事務所だった建物を自治体が買い取り、防犯活動の拠点となった例が、福岡県筑紫野市にある。警察官が住み込みで勤務する筑紫野警察署山口駐在所だ。県警が特定危険指定暴力団工藤会の壊滅作戦を始めて11日で5年。工藤会本部事務所をめぐっても、行政を交えた売却交渉に注目が集まる。市民や行政、警察の連係で生まれ変わった「成功例」の今を追った。

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 「詐欺の流れに身を任せ~」「どうかお願い~ キャッシュカードの 番号は絶対教えないでね」

 故テレサ・テンさんの名曲「時の流れに身を任せ」のメロディーに合わせ、偽電話詐欺への注意を呼び掛ける替え歌を披露するのは、同駐在所勤務の九日勇人巡査長(30)だ。

 3年前に赴任し、防犯教室でオリジナルの替え歌を披露したり、地域住民と防犯パトロールや通学路の見守り活動に取り組んだりしている。九日巡査長は「この町は多くの住民が『町の安全を守ろう』という愛と正義感にあふれている」と印象を話す。

 10年ほど前は、全く違う光景が広がっていた。駐在所となっている2階建て住宅は、07年4~12月ごろ、指定暴力団道仁会系の組事務所として使用されていた。当時、暴力団抗争が各地で頻発し、住民団体や県警などが暴追運動を展開して撤退に追いやった歴史がある。

 その後、筑紫野市が土地と建物を取得。県警が賃貸契約を結んで09年5月に駐在所として新たなスタートを切った。近くに住む人からは「事務所のあった頃はいつどんなトラブルが起こるか分からず、不安だった」と今も感謝されるという。

 九日巡査長は「協力して平和な町を守ってきた過去がある。二度と暴力団に踏み込ませないよう、住民の思いを引き継いでいくのが使命だ」と力強く話した。

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【写真】元暴力団事務所の4階建てビルを改装したケーキ店「グランディール・キキ」


 暴力団事務所からの“変身”を遂げた場所は他にもある。北九州市八幡西区のケーキ店「グランディール・キキ」だ。

 工藤会系の組事務所として長年使われていたが、組幹部が逮捕され15年に撤去。空きビルだった4階建てを、店主の永田弘一さん(40)が改装し、16年8月にオープンした。

 以前は「ビルの前を通るのも怖い」と地域から恐れられ、改装業者からは「あの場所なら…」と工事を拒まれたり、法外な金額を示されたりもした。だが、応援してくれる業者や住民も多く、黒々していた外壁を白く塗り直し、明るい印象に一新した。改装を知り、地元に移住した人もいたという。

 開店後は、警察官たちに経験を伝え、暴追イベントなどにも参加してきた。昨年1月には「暴力団排除活動を積極的に推進し、貢献した」として県警から感謝状を贈られた。

 「人が遠ざかる場所から、人が集まる場所へ変わった」と実感している永田さん。地域とのつながりや輪をイメージしたドーナツ「黒崎ロンド」(1個200円税別)は、店の看板商品になっている。

 時には「自分はここのビルにおったんよ」という元組員がケーキを購入していくこともあるという。「元組事務所だったことを知らない人もいる。それでも、人でにぎわい、笑顔あふれる場所になればうれしい」。淡い白色に塗られたビルを眺めながら、永田さんはほほ笑んだ。

【写真】グランディール・キキ/北九州市八幡西区/感謝状昨年1月

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 工藤会の本部事務所(北九州市小倉北区)をめぐっては、行政を交えた売却交渉に注目が集まっている。

 福岡県警の尾上芳信暴力団対策部長は「抗争が続く中、組事務所の前を子どもたちがランドセル姿で通学するなど異常な光景が見られた時期もあった」と振り返る。この5年間で、工藤会トップを始め多くの組幹部や組員を逮捕し、暴力団排除は進んできた。「組事務所は住宅街にあるケースも少なくなく、撤去は町の安心安全の一歩となる。今後も捜査や事務所撤去への手を緩めず、県民が安心して暮らせる町にしていきたい」と訴えた。

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