【動画あり】諫早湾環境このままか 開門“無力化”訴訟13日最高裁判決

西日本新聞 総合面 山本 敦文

 有明海を分断した国営諫早湾干拓事業(長崎県諫早市)の潮受け堤防排水門の開門を巡り、長年争われた法廷闘争が最終局面を迎えた。開門を命じた確定判決の“無力化”を国が求めた「請求異議訴訟」の最高裁判決が13日に言い渡される。最高裁は既に、別の2件の訴訟で漁業者側の訴えを退けた。司法判断は「非開門」で統一されるのか。漁業者が有明海異変の原因と主張する諫早湾の環境は、このまま固定化してしまうのか-。 (山本敦文)

 九州北部に被害をもたらした秋雨前線の雨が小康状態になった8月30日の午後0時54分。モーターのうなりとともに、潮受け堤防の北部排水門(6門)のうち2門がゆっくりと上昇し始めた。静かだった海面が次第に渦を巻き、潮の香りとは明らかに違う臭いが立ち込めた。

 河川の淡水と有明海の海水が入り交じる汽水域だった湾奥部を、全長7キロの堤防で閉め切った諫干事業。訴訟では「開門せよ」「開門するな」と争われるが、排水門は閉じっぱなしではない。本明川など計15水系の河川が流れ込む堤防内側の調整池からは、海側の水位が低くなる干潮に合わせて、たまった淡水をまとめて放出している。

 比重の軽い淡水は海面を激流のように流れ、広がる。この日の排水量は1時間半で201万トン。堤防には南部排水門(2門)もあり「年間を通じて北部と南部の排水量が公平になるよう開閉を調整している」(県管理事務所)という。

 九州農政局によると、2018年度の排水は北部100回(計1億9304万トン)、南部128回(計1億5622万トン)。湾内漁業への影響を否定する国に対し、漁業者には「排水のたびに塩分濃度が一気に下がり稚魚が育たなくなった」など疑念がくすぶる。

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 調整池の役割は、干拓農地の農業用水確保と、背後地の冠水被害防止だ。満潮時には排水門を閉じるなどして水位を低く保つ。総面積は2600ヘクタール。諫早湾閉め切り後の事業計画変更で干拓農地が縮小した分、池の面積が広がり、九州最大の「淡水湖」となった。

 水質は、汚濁の度合いを示す化学的酸素要求量(COD)や、貧酸素化や赤潮の原因となるリン、窒素の3項目について、環境基本法が定める基準を今もクリアしていない。国は事業着手前の環境アセスメントで「事業完了時には基準を達成できる」としていたが、海水との入れ替えがない調整池の水質改善の難しさは当初から指摘されていた。

 対策として国や長崎県などが実施した周辺の下水道整備などの総額は04~17年度で392億円。今年8月には泥の浚渫(しゅんせつ)などを加え、25年度までに水質基準を達成するとした3期目の計画を策定しており、今後も税金が投入される見通しだ。

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 福岡高裁が10年に国に命じた開門調査は、湾奥部をかつての汽水域に戻し、諫干事業と漁業不振との関係を調べ、再生への道筋を探ろうとするものだった。水位を現在とほぼ同じ低さに保つ「制限開門」なら「背後地の防災効果は変わらず、技術的には可能」と農林水産省も認めていた。それでも実施には至らず訴訟も乱立。国は非開門の立場を明確にした。

 13日の最高裁判決によっては開門判決という漁業者側の切り札は事実上、効力を失う。「このままなら文字通り、未来永劫(えいごう)どぶにお金を投げ捨て続けるようなもの」。有明海再生を掲げる漁業者側弁護団は、あくまで裁判を続ける方針だ。

 一方、水深が平均1・4メートルと浅い調整池は海水に比べ水温が上下しやすいため、一部の干拓営農者は「作物への熱害や冷害を招いている」として開門請求訴訟を新たに起こしている。

【ワードBOX】諫早湾の「開門」

 1997年の諫早湾閉め切り後に起きたノリ凶作の原因解明のため、農林水産省の第三者委員会が2001年に短・中・長期の開門調査を提言。国は02年、調整池に海水を入れる約1カ月の短期調査を実施した。漁業者が起こした開門請求訴訟では、3年の猶予を経て5年間の開門を国に命じた福岡高裁判決が10年に確定。しかし国が開門の前提とした干拓地の農業用水確保などの事業は長崎県の反対で行われず、17年には営農者が起こした訴訟で長崎地裁が国に開門差し止めを命じた。国は控訴を見送り「非開門」を宣言した。

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