「上級国民」がバズる背景は?ベストセラー作家が日本のタブーに切り込む

西日本新聞

 「上級国民」。ネット上でバズっている(爆発的に話題となっている)この言葉をご存じだろうか。2019年4月に東京・池袋で起きた、母子2人の命を奪った交通事故以降、盛んに用いられるようになったフレーズだ。元高級官僚で瑞宝重光章を叙勲していた87歳の男性運転手が逮捕されない一方で、その事故の2日後に起きた神戸市営バスによる交通死傷事故の運転手は現行犯逮捕されたため、「池袋事故の運転手は上級国民だから逮捕されない」「バスの運転手は下級国民だから逮捕された」などという憶測が飛び交ったのだ。以降、「上級国民」というフレーズはネット上の至るところで使われるようになっている。

 ネット上では多くの新語が生まれては消えていくが、ネットユーザーたちがこの言葉を素直に受け入れたのはなぜか。それは、まさしく日本社会が「上級」「下級」に分断されていることに、みんな薄々気づいているからではないだろうか。

 本書は、そんな日本国民の間に漠然と広がっている「上級」「下級」という意識について、ベストセラー『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮社刊)の著者・橘玲氏が鋭く切り込んだものだ。「今の若者は根性がないからすぐ会社を辞める」という“大人”のぼやきに「卒業する前年の失業率が高ければ高いほど、学卒後に正社員になれたとしてもその会社をすぐに辞めてしまう傾向がある」という説を引き合いに出し反論。失業した若者はフリーターとなり、歳を重ねてパラサイト・シングルとなり、引きこもりになっていった。結果、しかし、こうした事実は中高年の既得権益を奪うことにつながるため、なかなか明かされないという。

 さらに、著者は「高齢夫婦が退職後30年暮らしていくためには、年金以外に約2000万円が必要」と説明し炎上した金融庁の調査報告書に触れている。著者によれば、この報告書はまっとうな提言ではあるが、金融庁が報告書内で想定している「持ち家」で「年金受給額が20万」で「金融資産2000万円」の高齢世帯は約3割。それ以外を占める約7割の高齢世帯の不安を煽(あお)ってしまい、炎上したと分析する。

 他にも、本書では持てるものと持たざるものを「モテ」「非モテ」に分類し、彼らの間に広がる格差を分析している。どれも開けてはならぬパンドラの箱。神話では残ったのは希望だったが、本書が残すのは舌に残るようなざらついた苦みだ。日本が上級と下級で分断されているという、薄々感じてはいたが口にはできない、口にしてはいけなかった現実を突きつけられる。しかし現実を認識し、受け入れるところから未来は始まるのだ。そう教えてくれる一冊といえるだろう。

 

出版社:小学館
書名:上級国民/下級国民
著者名:橘 玲
定価(税込):885円
税別価格:820円
リンク先:https://www.shogakukan.co.jp/books/09825354

西日本新聞 読書案内編集部

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