高齢者や障害者を 自家用車で安く 福祉有償運送 運営ピンチ 採算厳しい 運転手も足りない 実施団体苦慮 識者は「制度の見直しを」

西日本新聞 くらし面

福祉有償運送の車に乗り込む大塚寿晃さん(中央)。車内では、スタッフとの会話も弾んだ 拡大

福祉有償運送の車に乗り込む大塚寿晃さん(中央)。車内では、スタッフとの会話も弾んだ

 自家用車を使って支援が必要な高齢者や障害者の移動を助ける低料金の「福祉有償運送制度」で、実施団体のNPO法人などが運営に苦慮している。利用料金に上限があるため採算が厳しい上、運転手の確保が難航しニーズに応えられないことも。公共交通機関でカバーできない人を救おうと始まった制度だが、既存事業者との調整も難しく、識者には見直しを求める声もある。

 8月下旬、福岡市中央区の病院に、福祉有償運送を実施する一般社団法人「錬身会 楽(らく)シィー」(同市)の車が着いた。退院した大塚寿晃(としあき)さん(48)=同市西区=が「やっと帰れるわあ」と笑顔で乗り込む。約20キロ離れた自宅に向かった。

 大塚さんは目が不自由で、月額8万円ほどの障害年金を頼りに暮らす。家から病院までタクシーだと片道5千円程度。この車なら2千円弱で済み「遠出のときは本当に助かる」。

 ただ、団体の運営は厳しい。利用会員は30人ほどだが、月の売り上げから車の維持費や運転手の人件費などを引くと赤字になる。共同運営する訪問介護事業所が穴埋めしているという。

 遠い地域の人が乗車を希望しても、送迎に時間がかかると車も運転手も足りず、断ることも。許山(のみやま)雅代表(40)は「公共交通が不便で、タクシー代がかさむ人を助けたい。利用したい人はもっといると思うんですが…」と、もどかしげだ。

      ◇

 福祉有償運送は2006年10月の道路運送法改正で制度化された。高齢化により1人で公共交通機関に乗れない人が増え、バスやタクシーの運行が十分でない過疎地も出てきたため。NPO法人などの団体が、条件を満たして国や自治体の登録を受ければ、同法で禁じられている自家用車での有償運送が認められる。

 登録された団体数は、06年度の2136が、18年3月は2466に。九州7県では06年度の約100が、18年3月は159になった。数字上は徐々に増えている。

 一方で九州運輸局によると、参入後に運送をやめる団体もある。九州各県の登録団体数は18年3月時点で福岡29▽佐賀33▽長崎16▽熊本22▽大分0▽宮崎25▽鹿児島34-と差があり、大分県は現在もゼロという。

 運送中止や登録の地域間格差は、制度上の要因が大きいとみられる。

 制度では参入時、自治体やバス・タクシー事業者などでつくる「運営協議会」で運送や料金などの合意を得る必要がある。料金はおおむねタクシーの半額が上限。収益確保が難しく、運転手の報酬は低額になる。

 団体の車が足りなければ、ボランティアの運転手が自分の車を走らせ、事故時は自らの任意保険で補償しなければならない。定年延長や再雇用で運転手も高齢化している。

 登録団体は訪問介護などの介護事業所が利用者サービスの一環で始め、運送の赤字分を事業所本体が穴埋めして、ぎりぎりの運用をしているケースが目立つ。福祉有償運送のみを単独で手掛ける団体は、より経営が厳しくなる。

      ◇

 そうした団体の一つが、人工透析患者を支援するNPO法人「通院送迎センター ステップ福岡」(同市)。18年度は法人と運転手31人の車で、利用者41人を病院に送迎した。

 福祉有償運送を始めた07年度以降、料金は最初の3キロが400円で、それ以降は1キロごとに100円を加算していたが、経営難で今年8月から値上げした。赤字のほか、運転手の高齢化と確保にも悩む。落合律子副理事長は「今は運転手の熱意で続いている状態。最低限の報酬を支払い、人手を確保できる制度にしないと継続は難しい」と語る。

 制度を持続するにはどうするか。九州大大学院の嶋田暁文教授(行政学)は、今はニーズに比べて登録が進んでいないと見ており、「運営協議会に入る交通事業者が既得権を守るため、新規参入を制約しがちなのが理由。行政もタクシー事業者に配慮し、登録団体への補助をしにくい。現行制度のままではサービスが広がらない」と説明する。

 その上で、登録要件から運営協議会の合意をなくし、福祉有償運送でタクシーなどに影響が出るか、実証実験をして参入の合意形成をするよう提案する。嶋田教授は「タクシー利用が大きく減れば、数年間は行政側がタクシーチケットを配るなどして穴埋めしてはどうか。福祉有償運送の団体に、車両購入や保険料を補助することも必要。これらを自治体が利害調整しながら進め、交通事業者と登録団体が共生できる方法を考えるべきだ」と指摘する。
 (河野賢治)

PR

PR

注目のテーマ