【成熟した外交のために】 宮本 雄二さん 

西日本新聞 オピニオン面

宮本雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使 拡大

宮本雄二(みやもと・ゆうじ)さん=宮本アジア研究所代表、元中国大使

◆国民との回路拡充図れ

 世界は本当の変革期に入ったと思う。米国に「指導者疲れ」が見え始め、国力の相対的な低下が見られる。自分が作った戦後国際秩序なのに、ルールを守らず、秩序を動揺させている。中国の台頭は著しく、しかも国際社会とどういう関係を築き上げるかについて、まだ最終結論を出せずにいる。

 外交とは「国益」の追求なのだが、何が真の「国益」なのかが曖昧となり、内政上、役に立てば、良い外交だという風潮が目立ってきた。世界の外交は、内政そのものとなり、ポピュリズム外交と化している。政治指導者は、短期的な、うつろいやすい国民感情を煽(あお)り、利用し、場合によってはそれに引っ張られながら外交をやっている。トランプ米大統領、韓国の文(ムン)在寅(ジェイン)大統領がその典型だ。ロシアのプーチン大統領も例外ではないし、英国のジョンソン首相にもその傾向はある。

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 その特徴は、単純化された白黒論議であり、狭く偏った「利益」や「正義」の追求にある。そこには、世界全体の「公益」を考える姿勢も、相手の立場や考え方を十分に理解して導き出される「公正」への配慮も薄い。誰も自分の身の回りのことしか考えない世界になってしまおうとしている。第2次世界大戦に突き進んだ1930年代の姿に酷似しているではないか。

 だが、第2次世界大戦前に戻る選択肢はない。人類はここで踏みとどまり、現行の国際秩序を支える理念と、それを体現する仕組みを護持し、発展させる決意を新たにしなければならない。現行の国際秩序こそ二つの世界大戦を経て人類の叡智(えいち)が導き出した現時点での回答であり、それを超えるものをまだ見いだしていないからだ。

 私は、第2次世界大戦前に戻らないように歴史の教訓を学ぶべきであり、「広い長期的視点に立ち、世界の大きな潮流を眺めて導き出される国益」を追求する外交の必要性を強調してきた(拙著『日中の失敗の本質-新時代の中国との付き合い方』)。そのためには、そういう国益観が、自国の究極の利益になることを理解した外交を、各国が確立しなければならない。感情や思い込みから離れた、冷静な成熟した大人の外交をやるということだ。

 その前提は、国民に成熟した判断ができることだ。世界の大国の中で、それを実現できる可能性が最も大きいのが日本だと思う。米、中、英の3カ国での限られた生活経験ではあるが、日本国民の平均的水準は高いと感じた。正確な情報と判断基準を提示されれば、限りなく正しい判断をするだろう。ポピュリズム外交に翻弄(ほんろう)される国際政治の中にあって、日本は国民が主役の大人の外交を実現し、世界に範を示すことのできる最短距離にいるのだ。

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 今日の日本の問題は、正確な情報と判断基準が国民に届いていない点にある。いかにしてバランスの取れた情報や判断基準を日本国民に届け、判断してもらえるようにするかが鍵だ。政治が大きな方向性を定め、専門家集団がそれに従って政策の選択肢を準備し、政治がその中から選ぶ。これが政と官のあり様であり、官とともに他の専門家も役割を発揮すべきだ。

 民主主義において政治が選択した政策は、最終的には国民多数の支持を得るものでなければならない。政も官も、そして他の専門家も、自分たちの考える政策、それを支える理念や目的について国民に語りかけるプロセスが不可欠となる。これを経ることで国民はより正確な情報と判断基準を得ることができる。この回路の拡充強化こそ、今日、最も求められていることだと強く思う。

【略歴】1946年、福岡県太宰府市生まれ。修猷館高-京都大法学部卒。69年に外務省入省。中国課長、アトランタ総領事、ミャンマー大使、沖縄担当大使などを歴任。2006年から10年まで中国大使。著書に「強硬外交を反省する中国」など。

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