反対運動40年、迫る期限 石木ダム「県、やった者勝ち」 長崎・川棚 土地明け渡し

西日本新聞 社会面 竹中 謙輔 平山 成美

 長崎県と佐世保市が同県川棚町で進める石木ダム事業の予定地で、住民らが2016年7月に現在の場所で始めた抗議の座り込みが計700日を超えた。国の事業採択から44年間動かなかったダム計画は、反対地権者の土地の一部の明け渡し期限が19日に迫り、一つの節目を迎える。所有権が国に移されたとしても、「ふるさとで住み続けたい」という住民の思いは土地に根付いている。「犠牲」を強いられようとする現場では、すでに日常と化した反対運動が続く。 (竹中謙輔、平山成美)

 里山の田畑を朝日が照らす。赤や青のゼッケンを着けた住民たちが、いつもの場所に向かう。胸には「石木ダム反対」「強制収用反対」の文字。ダム予定地、川棚町川原(こうばる)の岩下すみ子さん(70)は午前7時45分に家を出る。ダムに沈む県道の付け替え工事の現場で続く抗議の座り込み。住民が腰掛けるパイプ椅子の横を工事車両が砂ぼこりを上げて通る。今もこの地で、ダムに反対する13世帯が暮らす。

 岩下さんは13日、広げたノートに「700」と書き込んだ。昼すぎまで、住民や支援者約20人は日傘やサングラスで強い日差しに耐えた。「土日曜以外はほとんど毎日座る。こういう生活している人、おらんもんね」。終日座り込んだ日々もあった。股関節が痛むようになり、つえを突き、現場に続く未舗装の道を往復する。

 石木ダム事業は、水不足に悩む佐世保市の水道水源の確保と川棚川の治水を目的に県が計画。住民たちの座り込みは、県が道路工事に着手した10年に始まった。中断もあったが、工事は少しずつ進展。住民は場所を移しながら抗議を続けてきた。

 県収用委員会は今年5月、反対住民や地権者が所有する約12万平方メートルの明け渡しを命じる裁決を出した。期限は一部が19日、家屋を含む残りの土地が11月18日と定められている。

     ◇

 座り込みの現場から約300メートル離れた県道沿いに小さな掘っ立て小屋がある。座り込みに参加できない松本マツさん(92)らはここで午前中を過ごし「反対」の意思を示す。

 1982年、県が機動隊を投入してダム予定地の測量に踏み切った「騒動」が頭から離れない。当時も座り込んだ住民は腕を抱えられ、次々に引っ張り出された。踏み付けられる人もいた。「機動隊員が次から次へと押し掛けてね。小高い山から木の棒で指示してた。恐ろしかった。あれは受けてみんと分からんよ」

 この強制測量を機に、住民と県の溝は決定的になった。知事が代わっても協議は平行線をたどった。2014年を最後に住民と顔を合わせなかった中村法道知事は、土地明け渡し期限の19日、面会に応じる。高齢を押して出席する予定の松本さんは「昔のことを知る年寄りが頑張って知事に訴えなね」と自身を鼓舞した。

 住民たちには、県が計画実行を前提に「明け渡し後」の生活再建の話を持ち出すのでは-という警戒もある。「土地収用法は地権者をいじめて土地を奪い取る法律。県はやった者勝ちの論理で進める」

 共に面会に臨む地権者岩本宏之さん(74)は1950年代後半から13年間、熊本、大分県境の下筌(しもうけ)・松原ダム建設反対運動を率いた故室原知幸さんの言葉を胸に刻む。「公共事業は、法に叶(かな)い、理に叶い、情に叶うものであれ」

 石木ダム建設は、利水というメリットを享受する佐世保市でも賛否が割れる。反対する市民団体は「住民を犠牲にした水を飲みたくはない」と訴え、朝長則男市長宛てに抗議文を出している。

長崎県の天気予報

PR

長崎 アクセスランキング

PR

注目のテーマ