決意の脱サラ、故郷に「ただいま」 農園経営・松尾康司さん ゼロから築いた自分のトマト

西日本新聞 ふくおか都市圏版 郷 達也

 真っ赤に色づいたフルーツトマトが一面に広がるビニールハウス。長女明(あ)日(す)菜(な)ちゃん(4)が一粒を取って食べ、割れた実を集めて持ってきた。慣れた手つきを見て、「自分の小さいころと一緒」と目を細めた。

 福岡県宗像市の農園「とまとのまつお」を経営する松尾康司さん(40)。公務員や営業マンから転職した農業研修生を受け入れている。多くが30代の働き盛り。「人生このままでいいのかと考える世代」。かく言う松尾さんも、実は脱サラ組だ。土地も販路もなく、ゼロからスタートした自分と重なる彼らの挑戦を「後押ししたい」と、サポートを惜しまない。

 実家は同県福津市のトマト農家。物心ついた頃から遊び場はトマト畑だった。6歳にして収穫や選別を普通にこなした。専門学校を出て親元で就農したが、家庭の事情で家業は弟が継ぎ、農業は2、3年でやめた。愛知県の自動車メーカー子会社に就職し、車の品質管理に携わった。

 ある日、トマト畑の前で足が止まった。なっていた実は水分不足の一方、窒素分は多すぎなのが一目で分かった。「愛知は全国有数の産地。なのに何で、と勝手に腹が立った」。畑へ通い農家と栽培技術などを語り合ううちに、一度は諦めた農業への思いがわき上がった。「自分のトマトを作りたい」。31歳で一念発起。会社を辞め帰郷した。

 就農から数カ月は土地探しの日々。何とかハウスを得て栽培を始めたとき、心から「ただいま」と思い、自分の決断を誇れる気がした。自慢のトマトはハチの自然交配を行い、有機質肥料を使用。標準糖度10度、最高14度にもなるコクのある味わいだ。就農9年目で、扱う農地は宗像、福津両市の計6千平方メートルに及ぶ。

 もちろん成功ばかりではない。数年前、暑さで実が割れて商品にならず、200万円超の損失を出した。だが、熊本県南小国町に農産品加工場を構える有名シェフの菱江隆さんに相談し、無添加のケチャップやドレッシングなどの加工品開発につなげた。

 研修生のハウス探しも手伝い、2人がトマトやイチゴ栽培で独立した。農家に転身して食べていくことの難しさを知るだけに、十分な収益を上げられる持続可能な農業の確立へ、若手と研究にも取り組んでいる。

 トマトに呼び戻され、たくさんの人とつながった人生。「多くの仲間たちの力を集めれば、トマトに限らず作物の魅力は何倍にも高められる。そんな農家で居続けたい」 (郷達也)

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