夫婦も独りも泣き笑い 夫源病に男料理 ワタシペディア「私」事典~「老春」グラフィティ(3)

西日本新聞

 手に激痛が走ったのは、定年退職した夫と自宅に缶詰め状態になって1年が過ぎた頃だった。松田里子さん(60代)=仮名=の手の指は第2関節まで腫れ上がり、ジャガイモの皮も満足にむけない。夫とずっと一緒だった2週間の長旅から帰宅した直後。「夫源(ふげん)病」だと確信した。正式な病名ではないが、夫の言動によるストレスが原因で妻の心身に異変が生じることだ。

 「三十数年間、家族のために我慢して働いてきたんだから、好きなことをやらせろ」。夫は自室にこもり、本を読み返したり、パソコンをいじったり。日中は静かだった自宅に、物音を響かせ始めた。

 「毎日が日曜日」なのだから寝ていればいいのに、午前7時きっかりに朝食を食べに顔を出す。今まではなかった昼食作りの「義務」を終えると、もう夕飯の買い出し。一日中、拘束される。テレビのチャンネルも断りなく変えられる。子どもには当たり前にしてあげられたことも、夫だと無性に腹が立った。「夫に対しては母性がないの。だって産んでないんだから」。夫婦の会話は「ごはんよ」「うん」。4文字の呼び掛けに2文字の返事くらい。

 「このまま年を取るのはつらい」。我慢できず、救いを求めて外で働きだした。と同時に、手の痛みはぴたっと消えてなくなった。夫も引きこもり生活に飽きたのか、外に出るようになった。「きょうこんなことが…」と話し掛けてくる夫を、「ふーん」と受け止める心の余裕も出てきた。「夫婦でも、適度な距離感が大事ですね」。近すぎず離れすぎず、干渉しすぎず無関心すぎず。これが松田家の理想型のような気がする。
 

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