最高裁調査官への信書 大崎事件 中島 邦之

西日本新聞 オピニオン面 中島 邦之

 「人権救済の最後の砦(とりで)」とも例えられる最高裁判所に、調査官と呼ばれる人たちがいることをご存じだろうか。

 その役割を、元最高裁調査官の渡部保夫氏が著書「刑事裁判ものがたり」で紹介している。全国の地裁や高裁で実務経験を積んだ裁判官約30人が担う。下級審の裁判記録や上告趣意書などを読み込んで調査報告書にまとめ、裁判官に提出。裁判官は報告書に拘束される必要はないが、これを参考に判断する。

 1979年から5年間、同調査官だった木谷明氏も著書で「判決文の原案も調査官が作る」と説明。調査官は裁判官の補助者として、司法の最高府の判断に相当な影響力を持つ黒子的存在といえる。

 その調査官が近年、弁護人と距離を置き面談に応じなくなった、という嘆きを弁護士たちから聞いた。鹿児島県大崎町で79年、男性の変死体が見つかった大崎事件弁護団の鴨志田祐美弁護士は、やむなく、最高裁決定が出る2カ月前の今年4月、担当調査官宛てに信書を送った。本人の了解を得て内容を紹介する。

 「鹿児島地裁が原口アヤ子さんに殺人罪などで有罪判決を出したのは39年前。桜をめでる季節が40回も巡ってきたのに、彼女はそれを見上げることもないまま無実を叫び続ける日々を送っています」

 「今年1月、突然脈拍が30台に落ち、血圧も50台までに下がり、モニター監視される深刻な状態となりました。これほどの長い期間を待たせ続けたことの罪深さを、私たちは思い知らされました」

 「もはや弁護人、裁判官、調査官という肩書を超え、52歳から(92歳の)今日まで無実を訴え続けてきた女性の人生のフィナーレに、人としてどう向き合うかを考えるべき時ではないでしょうか」

 「情」に訴える文面に違和感も感じたが、その疑問にはこう答えている。「法の解釈適用に関する書面を提出するのが筋だと思われるかもしれませんが、なすべき主張は出し尽くしています」と。

 6月の最高裁決定は、鹿児島地裁と福岡高裁宮崎支部の再審開始決定を取り消し、アヤ子さんの再審請求を退けた。地裁、高裁の開始決定を最高裁が覆すのは初めてとみられ、全国各地の弁護士会や刑事法学者たちが「手続き的にも結論も不当」とする抗議声明を出した。

 相当数の専門家たちが痛烈に批判する決定は、裁判官5人のどんな合議を経たのか、調査官の報告書の内容はどうだったのか-。異例の結論に至った過程を知りたいが、それは分厚い秘密の壁に阻まれている。(社会部編集委員)

PR

PR

注目のテーマ