社会問題、身近に掘り下げ 劇団ホールブラザーズ20周年 「人を生産性で見るときつくなる」

西日本新聞 吉田 昭一郎

「足は口ほどにものを言う」の終演後、舞台であいさつする「HallBrothers」の劇団員たち。左端が幸田真洋さん 拡大

「足は口ほどにものを言う」の終演後、舞台であいさつする「HallBrothers」の劇団員たち。左端が幸田真洋さん

「足は口ほどにものを言う」を演じた劇団員たち 幸田真洋さん

 福岡市を拠点に活動する劇団「HallBrothers(ホールブラザーズ)」が結成20年を迎えた。シリアスな会話劇をオリジナルで繰り出しているという。地方都市でそんな劇団を維持するのは容易なことではないだろう。魅力はどこにあるのか、観劇し、主宰者の幸田真洋さんに話を聞いた。(吉田昭一郎)

 髪はぼさぼさで、無造作な着衣。引きこもりのようだ。ある若者が、寂れた商店街の足裏マッサージ店にやってくる。カバンに刃物が何本か入っているらしい。ヤバイ! 店内は騒ぎになる。

 8月30日、福岡市博多区のぽんプラザホールであった20周年記念公演の第3作「足は口ほどにものを言う」は、そんな場面から始まる。

 若者は無口で対人関係が苦手そうだ。だが、ある地方アイドルのことを語り始めると際限がない。そして、一生懸命に働く店員のもとに通い始めた若者を巡って、店員とお客らの間で、本音むきだしの「引きこもり論争」が始まるのだ。

 「普通はこんな昼間から毎日これんやろ」「ニートだと思います」「世の中ってのは甘くないっちゃけん。そういうこと分からんでプラプラしとうやつはホント頭に来るね」

 若者は失職中のようだ。前に勤めた会社になじめず「甘えている」としかられたという。「変わろうとしたけど…」とつらそうだ。店主は「それぞれの居場所に居ればいい」と受け入れる。だが、過労気味の女性会社員はいらだつ。「そう言ってしまうと何も変わらない」と。別の場面では「人それぞれと言っちゃうとすべて許されるみたいなのがおかしい」とも。

 「人の役に立つようにならな」と若者に説教を始めた商店街の世話役に、居合わせた店員の友人は「役に立たないと生きてちゃいけないんすか」とかみつく。

 事件は起きない。過去でも未来でもない。現在のありふれた日常と地続きの舞台で展開する論争は、見る側それぞれが心に秘める多様な思いをはっきりと可視化し、新たな気付きや共感を呼び起こす。

 川崎市の児童ら殺傷事件や、元高級官僚の息子刺殺など、引きこもり状態だったという人物が絡む事件が相次ぐ。「インターネットで『犯罪予備軍だ』『生きる価値がない』という書き込みがあふれ、困難な状況にある人たちを追い詰める。『社会の役に立っていない』とか、『生産性がない』とか。じゃあ、あなたはどうなの? と言いたい。生産性で人の価値を測る考えをもつ人は逆に自分を追い込む。そんなきつい生き方はやめようよ、と思うんです」。脚本・演出も担う幸田さんは語る。

 ネット上と裏腹に、自由に意見表明しにくくなっているような社会の息苦しさを思えば、舞台の本音の論争はひりひりするような痛みも時に伴いながら、さわやかにさえ感じる。「見た目にだまされたらダメよ」「生きてるだけで価値があります」。そんな店主のせりふも効いていた。
 

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