懸け橋荒波を越えて(中) 市民に根付く「誠信交隣」 朝鮮通信使

西日本新聞 国際面 前田 絵

韓国釜山市の朝鮮通信使歴史館で、「誠信交隣」が築いた日本と朝鮮王朝の友好交流の歴史を振り返る姜南周さん 拡大

韓国釜山市の朝鮮通信使歴史館で、「誠信交隣」が築いた日本と朝鮮王朝の友好交流の歴史を振り返る姜南周さん

 「対馬の朝鮮通信使の再現行列はどうすべきだと思いますか」。7月25日夜、元釜慶大総長の姜南周(カンナムジュ)さん(80)=韓国釜山市=の電話が鳴った。相手は呉巨敦(オゴドン)市長。市長は2日前、日韓両政府の対立を受け、市主管の交流事業の再検討を表明した。市長の意向は日韓交流を続ける民間団体にも大きな動揺を与え、地元メディアは「やり過ぎだ」と批判。市長は迷っている様子だったという。「(再現行列は)市民の友情と文化の交流だ。続けるべきだ」。姜さんは強く進言した。

 朝鮮王朝が江戸幕府に派遣した外交使節団「朝鮮通信使」。豊臣秀吉による朝鮮出兵で断絶した国交を回復し、その後約200年にわたる友好と平和を築いた。

 長崎県対馬市で行われる再現行列は、両国の市民が参加して1980年に始まった象徴的な交流事業だ。韓国側は釜山市の関連団体が窓口で、市が反対すれば深刻な影響が予想された。長く事業に関わってきた姜さんの説得を受け入れ、呉市長は参加を容認した。

 韓国文学が専門の姜さんは94年に福岡大の研究員として来日。日本での韓国文化の痕跡を探ろうと対馬を調査し、朝鮮通信使の再現行列を知った。帰国後も研究を続け、2002年に釜山市で行われた通信使の再現行列に力を尽くした。17年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録された通信使関連資料の日韓共同申請にも携わった。

 8月4日、対馬市の朝鮮通信使の再現行列は例年通り実施された。色鮮やかな朝鮮半島の伝統衣装をまとった日韓両国の市民約300人が、市街を練り歩いた。沿道で見守った姜さんは「盛り上がって良かった」と表情を和らげた。

 対馬藩の儒学者で通信使に2回同行した雨森芳洲(あめのもりほうしゅう)は対朝鮮半島外交について藩主に宛てた指針書で「互いに欺かず、争わず、真実をもって交わる」との理念「誠信交隣」を唱えた。

 今年の行列で通信使の正使役を務めた南松祐(ナムソンウ)・釜慶大名誉教授(65)は10日付の韓国紙で投げ掛けた。「韓日間の葛藤を乗り越える『対馬宣言』ができないか」。姜さんも賛同する。「国の関係が硬直した時ほど柔軟な民間交流の役割は大きい。今こそ『誠信交隣』の精神が必要だ」 (釜山・前田絵)

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