生活困窮の子を支えたい NPO法人代表理事 田口吾郎さん

西日本新聞 ふくおか都市圏版 大坪 拓也

 ●学びの場提供し夢後押し

 静かな部屋で中学生3人が問題集を解いていた。対面するボランティア講師の助言に耳を傾けた生徒が、うなずいてほおを緩めた。「一人一人に向き合う指導をすれば、基礎学力だけでなく会話力や振る舞いもしっかりしていく」。田口吾郎さん(41)の言葉に実感がこもる。

 NPO法人「いるかねっと」(福岡市西区)の代表理事。生活困窮家庭の子どもを支援する無料学習教室「マナビバ」を、市内約20カ所で開設している。中学生を中心に小学1年~高校3年の計約220人が学んでおり、学習支援事業としては全国有数の規模だ。

 自身の家庭も裕福ではなかった。少年期は公営団地で暮らした。周囲に「頭がいいな」と思う友人もいたが、それぞれ家庭の事情などを抱えていて、勉強や進学が話題に上ることは少なかった。

 それでも、教育熱心な母に諭され、こつこつ勉強。入学した福岡大人文学部で学んだ社会学の講義にハッとなった。「育つ環境は努力できる機会を左右する」

 自らの境遇を顧み、幼なじみの顔を浮かべた。「自分は熱心な母がいたから、たまたま頑張れただけではないか…」。学習意欲が乏しかった幼なじみに「なぜ勉強しないのか」と疑問を抱いた過去を恥じた。

 置かれた環境次第でその後の人生も決まってしまう社会。やるせなさを飲み込み、卒業後は大手IT企業などで猛烈に働き、人並み以上に稼いだ。30歳で訪問介護サービス事業所を運営する母親から手伝うよう頼まれ帰郷。数字で割り切れない世界で自分を見つめ直し、「このままでいいのか」と自問を重ねた。

 転機は2011年の東日本大震災。宮城県の仮設住宅などでボランティアに従事した。被災地での経験に感化され、「地元に貢献したい」との思いは強くなった。翌年、法人を設立。まず高齢者らの家事の困り事を低額で解決する事業を始めた。地域を回るうち、教育困難な子どもの現状を改めて目の当たりにし、「少しでも良い方向に変えなければ」と14年から学習支援に取り組んでいる。

 志への共感は次第に広がり、ボランティア講師の登録はいま約300人に上る。協賛金募集に応じてくれる企業は少ないため、運営に手出しも多いが「子どもたちのためにできることをしたい」と意に介さない。

 教室には家庭環境が厳しい児童生徒も多い。それでも腐らずに友人たちと将来の夢を語らい、青春を謳歌(おうか)する姿を目にすると、幸せを感じずにはいられない。 (大坪拓也)

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