「あるある詐欺」を忘れるな

西日本新聞 オピニオン面

 あれって要するに「あるある詐欺」だったよなあ-とつくづく思う。

 2003年、米国を主体とする有志連合軍がイラクに侵攻し、当時のサダム・フセイン政権を崩壊させた。イラク戦争である。

 開戦の理由として米国は「イラクが大量破壊兵器を保有している」ことを第一に挙げていた。フセイン政権は危険であり政権交代が必要だ、との理屈だ。

 侵攻は国際法違反ではないかとの指摘に対し、米国は「イラクに大量破壊兵器がある」と言い続けて押し切った。小泉純一郎首相(当時)もこの主張に乗ってイラク戦争への支持を表明、その後復興支援で自衛隊をイラクに派遣した。

 しかし、米軍占領下でいくら捜索しても大量破壊兵器は見つからなかった。「大量破壊兵器がある」という理由自体がウソ、もしくは間違いだったのだ。

 そして米国は現在、今度はイランについて「危険な国家だ」と強調し、イランへの圧力を狙ったホルムズ海峡警護の有志連合参加を日本などに求めている。

   ◇    ◇

 小泉政権で自衛隊イラク派遣を統括し、その後日本のイラク戦争対応を検証する「官邸のイラク戦争」という本を書いた柳沢協二元内閣官房副長官補に、当時と今の事情を聴いた。

 -イラク戦争は「あるある詐欺」だったのでは。

 「詐欺の意図があったかどうかは別にして、当時のブッシュ米政権内のネオコン(新保守主義)勢力にとって、悪の枢軸国と位置付けていたイラクの政権交代そのものが目的で、大量破壊兵器はその理屈付けの一つだったのだろう」

 -当時の日本に、米国の「大量破壊兵器がある」との主張の真偽を判断する情報力はあったのですか。

 「なかったと思う」

 -にもかかわらず、小泉首相が米国の開戦を支持したのはなぜでしょう。

 「小泉氏は語らないので推測すれば、米国を孤立させてはならないとの思いがあった。また北朝鮮の核開発の脅威にさらされていた日本としては、『大量破壊兵器』をキーワードにして米国との同盟を守ることに大きな意義があると考えたのではないか」

 -米国は今、イランとの軍事的対決姿勢を強め、中東に「イラン危機」をつくり出しています。日本政府はイラク戦争の教訓を生かせそうですか。

 「米国の主張に対する健全な疑問は持てると思う。ホルムズ海峡の有志連合構想に日本が今のところ飛びついていないのは、イラク戦争の教訓とも言える。米国にきちんとした中東戦略がないので『米国に従っていれば大筋で間違わない』という安心感も今はない」

   ◇    ◇

 本来、イラク戦争を反省すべきなのは米国だ。しかし、当時「大量破壊兵器がある」とあおった高官がトランプ政権で重要ポストに起用されていたことから見ても、米国は反省していない。ならば日本が自分で反省するしかない。

 サウジアラビアの油田が何者かに攻撃され、米国はイランの関与を主張。中東の緊張は高まる一方だ。中東各地で軍事組織を支援するイランは決して品行方正とはいえない。しかし、米国の主張をうのみにするのも危うすぎる。日本は「あるある詐欺」に遭った過去を忘れてはならない。

 (特別論説委員)

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