ラグビードクター W杯「参戦」 福岡の村上秀孝医師、九州の試合に 「安全優先精神 広める」

西日本新聞 医療面 井上 真由美

 20日に開幕するラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会。九州での試合には、地元の医師も試合中の負傷者を診る「マッチドクター」としてピッチに立つ。国際資格を持つスポーツドクターで整形外科医の村上秀孝さん(52)=福岡県田川市=は「選手の健康や安全を最優先するラグビーの精神を広めたい」と話す。日本代表のチームドクター経験もある村上さんに、医学的な観点からW杯の見どころや期待を聞いた。

 -医師はどんな役割を果たすのか。

 「ラグビー界は『プレーヤー・ウェルフェア』を掲げている。日本語で言うと『選手の安全、健康、引退後も含めた福祉』を最優先する。例えば、脳振とうは短時間で回復しても、衝撃を受け続けると脳に重大な損傷を生じる危険が大きい。以前は選手本人が『大丈夫』と言えば試合に戻していたが、今は退場させてマッチドクターが状態を評価し、プレーさせないこともある。W杯では、世界共通の研修で知識を身に付け、国際資格(ICIR、PHICIS)を取得した医師が試合を見守る」

 「体重100キロ超の選手が全速力でぶつかり合うなど、プレーが高速化、ハード化して魅力が高まっている半面、けがも増えている。傷害発生率(1時間に千人が試合した場合のけが人の割合)は、2007年のフランス大会が83・9人、11年のニュージーランド大会が89・1人、15年の英国大会は90・1人。日本大会は100人を超えるのではないかと懸念される。このため、病院に搬送して診るのでなく、会場ですぐに診て適切に対応する『ピッチサイド・ケア』も徹底している」

 -選手の安全を重視するようになったきっかけは。

 「米プロフットボールNFLのスター選手だったマイク・ウェブスターさんの死後解剖で、長期間にわたる頭部外傷により脳障害を生じていたことが明らかになった影響が大きい。ラグビーも同様のリスクがあり、万全の安全対策を講じるようになった」

 「前回W杯では、カメラ約10台で脳振とうの疑いがある選手を見逃さないようにする『ホーク・アイ・システム』を導入。疑わしい選手がいたらマッチドクターに連絡が入り、審判が試合を中断する。日本大会ではカメラがさらに増えるようだ。選手はアクセル全開だが、医師は冷静にリスクを判断し、ブレーキをかける。私も福岡、大分の試合でマッチドクターを務めるが、試合の流れを左右しかねず、誇りとともに大きな責任を感じている」

 -徹底した安全対策は学生などアマチュアにも浸透しているか。

 「十分ではない。もっと指導者や保護者、選手自身にも医学的知識を身に付けてもらい、子どもたちの未来を守っていきたい。私は14年にPHICISレベル3を取得し、今年は九州ではまだ少ない指導者資格も取った。九州で研修会を重ね、知識を広めている。例えば、休日の試合で選手が負傷した場合、救急車をどういう経路で誘導し、どの病院に運ぶかなどの『救急行動計画』はきちんと作っておくべきだ」

 -他のスポーツではどうか。

 「フィギュアスケートの羽生結弦選手が14年のグランプリシリーズでの練習中に転倒し、頭を負傷したにもかかわらず、試合に出場したことが美談として伝えられた。実際は脳振とうの疑いもあり、スポーツ医学の観点からは危険な行為だったという指摘もある」

 「高校野球の球数制限など、選手の将来を視野に入れて健康や安全を考える視点は重要だ。熱中症予防は今や根性論は通用せず、科学的な対策が不可欠となるなど、指導者世代の常識が非常識に変わっていることもある。アマチュアスポーツ全体で、周囲の大人が知識を更新し、子どもの未来と才能を伸ばしてほしい」

 「来年の東京五輪開催を機にスポーツブームや運動人口増加が予想されるが、事故も増えてしまわないよう、スポーツ医学の知識の普及が望まれる。ラグビーW杯の日本開催を機に、選手の健康・安全・福祉を重視する精神も広がってほしい」 (聞き手・井上真由美)

 ▼むらかみ・ひでたか 久留米大医学部卒業。日本スポーツ協会スポーツドクター、村上外科病院院長。2008~11年にラグビー日本代表のチームドクター、16~17年にスーパーラグビー「サンウルブズ」のチームドクターなど。ラグビー以外にも南極・昭和基地遠隔治療ドクター(06~07年)、国体福岡県選手団帯同ドクター(06年~)も務めた。

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 ▼ICIRとPHICIS ICIRは「Immediate Care In Rugby」の略。ワールドラグビー(WR)が定めるピッチでの救命救急資格。PHICISは「Pre-Hospital Immediate Care In Sports」の略で、イングランド・ラグビー協会が定める同様の資格。日本の有資格者は約200人(2018年)。レベル1~3があり、2以上は医師など医療従事者のみが対象となる。マッチドクターはレベル2以上が必要とされる。

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