地域メディアの将来像議論 法政大で集中講義 本紙「あな特」も紹介

西日本新聞 金沢 皓介

沖縄戦体験者の証言を伝えたプロジェクトなどについて講義する沖縄タイムスの與那覇里子記者 拡大

沖縄戦体験者の証言を伝えたプロジェクトなどについて講義する沖縄タイムスの與那覇里子記者

中国新聞の明知隼二記者は、原爆・平和報道の取材体験を通して地方紙記者が果たすべき役割などを語った 西日本新聞「あなたの特命取材班」の金沢皓介記者らに学生から質問が相次いだ 法政大の学生たちが、各地から集まったメディア関係者と議論を深める時間もあった

 地域メディアの取り組みから、その役割や将来の可能性を探る法政大社会学部(藤代裕之准教授)の集中講義「ローカルジャーナリズム論」が17~19日、東京都町田市の法政大多摩キャンパスで開かれた。講座には西日本新聞など地方新聞社やテレビ局、フリーランスの記者らが登壇。本紙のオンデマンド調査報道(ジャーナリズム・オン・デマンド=JOD)企画「あなたの特命取材班」(あな特)の取り組みも報告された。


 あな特は2018年1月1日付朝刊からスタート。無料通信アプリLINEなど会員制交流サイト(SNS)を活用し、記者たちが直接つながった読者からの調査依頼を起点に、課題解決型調査報道を重ねてきた。暮らしの疑問から地域の困り事、不正の告発まで、双方向のやりとりと新聞社の取材力でこれまでに270本を超す記事を掲載。LINEでつながるフォロワー(あな特通信員 ※登録はこちら)の数は約1万1300人に上る。

 同様の取り組みは全国各地の地方紙・ブロック紙にも広がり、北海道から沖縄県まで15の新聞社、テレビ局、ラジオ局と連携する「JODパートナーシップ協定」を締結。記事の交換や情報の共有、協働調査報道などを進めている。

 講師を務めた本紙の坂本信博・クロスメディア報道部デスクは「新聞離れが進んでいるが、あな特は西日本新聞のファンを増やし、信頼を得るツールとして着実に浸透しつつある。地方紙という地域最強のメディア同士が結集することで、さらに読者の思いに応えられるよう、全国のローカルメディアの仲間たちと挑戦を続けていきたい」と力を込めた。

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 3日間にわたる講義は多彩な講師が顔をそろえた。

 中国新聞(広島市)の明知隼二記者は、被爆地に本拠地を置く新聞社として取り組んできた原爆・平和報道について紹介。戦後74年が経過し、被爆当時を知る人が次々と亡くなっていく中、語られることのなかった無数の記憶とどう向き合い、報じていくかについて、自身の書いた記事や国内外の取材体験を踏まえて語った。

 ノンフィクションライターの石戸諭さんは、東京に拠点を置き、東日本大震災や原発事故の被災者を取材してきた経験などから「メディアの役割」について考察。当事者に寄り添って思いを代弁するのではなく、「第三者」として接し、当事者と言葉を探しながら真意に迫り、事実を伝えていくことが必要と指摘した。

 インターネットやテレビ番組から地域活性化につなげる具体例も報告された。

 北海道テレビ(札幌市)の高橋啓人・コンテンツビジネス局ネットデジタル事業部副部長は、レギュラー放送終了後、15年超を経過しても「藩士」と呼ばれるファンの心をつかみ続けるバラエティー番組「水曜どうでしょう」から派生した多様なコンテンツ展開を紹介。地方テレビ局の「本業とは何か」を問い直し、固定観念を打ち破る大切さを説いた。

 広告企画会社・博報堂ケトル(東京)の日野昌暢さんは、自身が制作に携わった群馬県高崎市の個人経営の飲食店を徹底取材したグルメサイト「絶メシリスト」を、和歌山大の杉山幹夫客員教授は、地域の情報を自由に書き込んで共有できるサイト「LocalWiki」を取り上げ、それぞれ地域の魅力を発信するメディアの必要性を訴えた。

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 島根県を拠点にフリーの「ローカルジャーナリスト」として活躍する田中輝美さんは、地方紙で記者をしていた経験や、現在の執筆活動について紹介。ローカルジャーナリズムの役割として、地域の魅力などを発掘する▽問題提起する▽地域の人同士をつなぐ-ことを前提に、普段向き合っている地域の「外とつなぐ」こと、他地域を意識して自分たちを「相対化する」ことが必要だと強調した。

 高知新聞(高知市)の教育・地域事業室の川戸未知さんは、東日本大震災の教訓から南海トラフ巨大地震への備えを進めるために始めた防災プロジェクト「いのぐ」(「いのぐ」は高知の方言で「生き延びる」の意味)について講演した。

 16年元旦から始めた企画は紙面展開にとどまらず、高知県内の中学生を対象にした「防災いのぐ記者」の育成や、地元地域と行う避難訓練などにも発展。東日本大震災に直面した河北新報(仙台市)との情報交換なども行っており、地域や行政、学校、企業などをつなぐ役割としてのローカルメディアの重要性を指摘した。

 デジタル技術を地域性の強いニュースに取り入れる手法を紹介したのは沖縄タイムス(那覇市)の與那覇里子記者。太平洋戦争で国内唯一の地上戦となった沖縄戦体験者の証言などを基に当時の住民たちの足取りをデジタルの地図上で見られるようにした「沖縄戦デジタルアーカイブ」の取り組みや、戦前の沖縄を記録した白黒の報道写真をAI(人工知能)も活用しながらカラー化するなど、「言葉」だけに頼らない報道の形について説明した。また、18年の沖縄県知事選でインターネット上に飛び交う「フェイクニュース」の検証に挑んだ経緯や難しさについて具体例を交えながら解説した。(金沢皓介、谷光太郎)

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