完璧主義で陥った悪循環 菊池良和(九州大病院・吃音外来医師)

西日本新聞 医療面

吃音~きつおん~リアル(2)

 今、勤務先の九州大病院(福岡市東区)で1日に何回も電話で話していますが、医学生の時は電話が大の苦手でした。苦手感は、中学時代の失敗体験が大きく影響しています。

 ある日、友達の家に電話をかけました。携帯電話ではなく、固定電話の時代。先方が電話に出て、私は名乗ろうとしましたが、喉に鍵が掛かったように言葉が出ません。電話を取ったのは友達のお姉さん。「もしもし、もしもし、もしもしっ」というせかす声が耳元で響きます。

 私は第一声を発しようとしますが、せかされるほどに声が出ない。「いたずら電話はやめてください!」。明らかに不機嫌な声で、お姉さんに電話を切られてしまいました。当然でしょう。私には徒労感が残り、自己否定感や劣等感でいっぱいになりました。以来、電話をかけるのを避けるようになっていました。

 ところが大学時代、電話でアルバイトの欠勤連絡をする必要に迫られました。「言葉が詰まり、名前も言えなかったらどうしよう」。不安が募った私は電話を諦め、片道1時間のアルバイト先へ。「今日は用事があるので休ませてください」とだけ伝えると、また1時間かけて用事のある場所に向かったのでした。

 電話なら1分以内で済むのに、吃音(きつおん)を隠すためなら往復2時間かけた方がいい。「言葉を詰まらせるところを誰にも見せたくない」という完璧主義に、行動が支配されてしまっていました。

 当時は「あのー」と切り出してタイミングを計ったり、言葉を言い換えたりすれば、吃音をコントロールできると思っていました。実際は吃音に生活や人生を振り回されている。22歳で初めて気付きました。

 同時に、こんな悪循環に陥っている自分に気付けたことで、吃音にとらわれない生活を送れるようになったのです。 (九州大病院医師)

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