<32>遺伝子はどこかに残っている

西日本新聞 くらし面

 「女性は産む機械」「最低3人くらい産むように」などと発言し、出産で女性を評価しようとする政治家たちには驚かされます。確かに子どもの誕生は喜ばしいことですが、だからといって、望んでも、環境が整っていても、誰もが授かるわけではありません。

 子どもを産むということは、「命の設計図」である遺伝子を次の世代へ引き渡すことでもあります。1人の子どもには親の遺伝子の半分が引き継がれ、2人の子どもがいれば、親1人分の遺伝子を残すことができます。

 では子どもがいなければどうなのでしょうか。実は兄弟姉妹が2人、またはおいやめいが4人、あるいはいとこが8人いれば、1人分の遺伝子が引き継がれるのです。

 かつて、ある女性タレントが「夫の遺伝子を残したい」と代理出産を選び話題になりました。でも親戚中を見渡せば、確実にあなたの遺伝子のいくらかを持っています。子どもがいないからといって、「遺伝子を残せず申し訳ない」と感じる必要はないのです。

 昔は親戚が近所に暮らしており、すれ違う人の中には遺伝子を共有している人がいたので、周りに親切にすれば、結局自分の遺伝子をいたわることになっていました。今では移動距離が広がり、近所の親戚は少なくなりました。それでも周りには遺伝子を共有している人、つながりのある人がいるかもしれません。情けは人のためならず。人に親切にすることは、自分のためでもあるのです。

 ある病院の飲み会で、酔いに任せて看護師さんたちにこの話をしたら、帰り際、師長さんに呼び止められました。師長さんは看護一筋30年の厳しい方で、縁あって数年前に結婚しておられました。

 「先生、私ね、長い間仕事が一番と思ってやってきたけど、ある年齢になって、なんで若い時に結婚しなかったのだろうと思うようになったの。子どもがいないことを引け目に感じていたのよね。でも今日の話を聞いて、ちょっと楽になったかなあ。もっと早く教えてくれれば良かったのに」

 子どもがいないのは負け犬でも負け組でもありません。大切なのは生きる姿勢です。自分らしく、人に優しく生きていきましょう。 

 (泌尿器科医・池田稔)

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